劇場公開日 1985年11月9日

「誠者天之道也 誠之者、人之道也」それから(1985) いぱねまさんの映画レビュー(感想・評価)

3.0誠者天之道也 誠之者、人之道也

2018年11月17日
PCから投稿
鑑賞方法:映画館

知的

難しい

『2018年の森田芳光 〜森田芳光全作品上映&史上初!ライムスター宇多丸語り下ろし〜』での鑑賞
解説付でなければ、決して鑑賞する事はなかったであろう作品。丁度、ホン・サンス監督の同名作を鑑賞した後で、題材となった夏目漱石作品を読もうかどうか迷っていたので渡りに舟でもある。
ストーリーは、教科書にも載る程なのである程度は頭に残っている。金持ちの放蕩息子が前々から友人の奥さんに恋心を持っていて、いよいよその友人に奥さんを譲って欲しいと頼む。友人は承諾する代わりに事の顛末を息子の実家に告げ、勘当される。さぁ、『それから』どうする?というエンディングである。それぞれの立場が交差する中での心理描写が如実に表現される作品であり、森田監督と主演松田優作が選んだ恋愛物語である。
只でさえ、重苦しい雰囲気がスクリーンに投影されているが、所々ユーモア(手錠 西洋料理の味等々)も散りばめられており、尚且つ、明治時代を意識しない衣装の数々、特徴的な照明の当て方等、随所に監督のアイデアが盛られている。というのも解説を聴いての気づきなのだが、それでも、多分、今の邦画作品には無い、作家性の強い強烈なアタックが心に乗っかるインパクトは充分感じる。路面電車の心象シーン等も原作には無いが、主人公の現在心境をどうやって表現しようかと考え抜いたカットは、あの時代だからそれなりにお金も掛かっている贅沢な作りである。多分、同じようなシーンならば、それこそ“エヴァ”や“千と千尋”に差し込まれているようなシーンとしての表現方法をアニメーションに頼らざるを得ないのだが。
勿論、濡れ場は殆ど無いのだが、ラムネを舐めるシーン等、その辺りの意図されたシーンも丁寧に作り込まれている。
今の時代に今作品が作られていたならば、もっと評価は高いと思わせる程の考え尽くされた出来映えだと思う。出演者も一流ばかりだし、相当の制作費がないと決して出来ない内容だ。文学作品としてはレベルの高さを否応なしに認めざるを得ない内容である。

いぱねま