「音楽を聴くだけでも一見の価値あり。」海の上のピアニスト plutonerさんの映画レビュー(感想・評価)
音楽を聴くだけでも一見の価値あり。
以前から興味があったこの映画。
実は私、「ニュー・シネマ・パラダイス」はそんなにハマれなかったのです(良い映画だとは思いましたが)。けれど自分がピアノを長く習っていたこともあり、この作品は観たいと思っていました。
全体的に良かったと思います。
まず、やはり一番は音楽。全編音楽につつまれていて、観ていて心地よかった。
そして、ヒューマンドラマだけど、優しいヒューマンドラマであるところ。
困難を克服していくとか、気合系ではなく、嫌な人たちが出てこない。
(ジャズのピアノ対決の人はちょっとした悪役ではありましたが、あの程度は悪役と言わなくて良いでしょう)
そういった心休まる映画で、そこが今の疲れた自分の気分と合っていて気に入りました。変な言い方ですが、心に優しい映画だと感じました。
実話ではないけれど、モデルはいるらしいこの作品。
「一生船から出ないなんて」と皆は思っても、彼にとっては船上での生活が人生の全てだったし、そのことを彼自身、最終的に後悔したりしていなかったのだと思う。
地上に降り、世界を旅して大きな舞台で活躍する、それが豊かな人生かのように周りは語るけれど、彼がそうしていたらもっと幸せだったのか?
その答えはわからない。
確かに世の中に名は残せただろう。お金持ちにもなれただろう。
でも彼は、名声や富を求めるような人間ではない。
だから、彼は才能があるのだから世界で活躍する道を選んだら良かったのに、なんて風には私は思わない。
ただ一つ思うとすれば、彼がもし外に出れば、より多くの人を癒せただろうな、彼のピアノによって救われる人がいただろうな、ということくらい。
でも、彼の人生は彼だけのもので、どう生きるかは彼自身が選び決めていく権利がある。それがどんな決断でも。彼は地上に降りるチャンスもあったけれど、結局船上で生き続けることを選んだ。周りがなんと言おうときっと、それが彼にとって一番だったのだと思う。
コーンという友人が、回想しながら1900を探しまわり、見つからないかと思った矢先に会えたのは本当に良かった。
1900は、
「それに僕は存在しない人間だから」
と言うけれど、コーンに、
「君だけが、君だけが僕がいたことを知っている」
と言う。
彼が望んだのは、有名になることでも、バンドを組んで楽しく暮らすことでもなんでもなく、ただ、自分という人物が存在したということを、覚えておいてくれる人が一人でもいることだった。
その事実が、心に響いた。
彼がラストに、地上に降りることより死を選んだことは共感しづらいですが、でも、彼にとってはあの船が全てだから、船がなくなる=自身の死、と同じだったのだと思います。特別な、数奇な運命を背負って産まれ生き続けた彼。船上でしか、生きられなかった彼。船上でしか、生きなかった彼…。
見終えた後に、本当に豊かな人生とは何か。本当の幸せとは何か。本当に良い生き方とは何か…そんなことを考えさせられました。
この監督が好きな方にはきっと合うと思いますし、音楽は本当に素晴らしいので音楽好きな方にもオススメ出来る映画だと感じました。