劇場公開日 2024年3月22日

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「ビートたけしと坂本龍一を世界に知らしめた映画」戦場のメリークリスマス 琥珀糖さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0ビートたけしと坂本龍一を世界に知らしめた映画

2023年3月11日
PCから投稿
鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

ビートたけしにとっても、坂本龍一にとってもターニングポイントになったし、日本映画界にとってもターニングポイントになった映画でした。

『戦場のメリークリスマス』
1983年。
監督:大島渚。
製作:ジェレミー・トーマス。
原作:ローレンス・ヴァン・デル・ポスト
脚本:ポール・メイヤーズバーグ
(俳優をはじめとして国内及び外国資本、製作・脚本と多国籍で作られた
国際仕様の当時としては巨大なプロジェクトの映画です)

今回、日本映画専門チャンネルの4K修復版(放送は2K)が
放映されて、遂に観ることが出来ました。
(ケーブルテレビの場合、日本語字幕が付くのも利点です)

主演の3人。
デヴィッド・ボウイ(撮影時35歳)
坂本龍一(撮影時30歳)
ビートたけし36歳)

世界的ロックスターのデヴィッド・ボウイ。
伝説のバンドYMOの作曲兼シンセサイザーの教授こと坂本龍一。
売れっ子漫才師のビートたけし。

ボウイと龍一は、その美しさで魅了するし、
坂本龍一は【一度聴いたら脳裏に刻まれるテーマ曲】を作り、
後の「ラストエンペラー」でのアカデミー賞作曲賞に繋がった。
ビートたけしは、この映画出演をキッカケに映画に興味を持ち
その後役者に力を入れて、「その男凶暴につき」で満を辞して
映画監督として華々しくスタートして、
「HANABI」「ソナチネ」などを作品多数。
『戦場のメリークリスマス』で現場を完璧に掌握するカリスマ
大島渚への傾倒があったと語る。

この映画の奇跡のキャスティングが実現した第一の要因は、
世界をアッと言わせた『愛のコリーダ』1976年の成功にあるのでしょう。
デヴィッド・ボウイはこの映画出演のために2年間のスケジュールを
あけて待ったそうです。

さて作品はインドネシアのジャワでの捕虜収容所を舞台に
イギリス人捕虜と日本人軍人の交流を描いている。

日本軍大尉や軍曹の横暴かつ野蛮な行いを、やや俯瞰から見た
客間的に描写した映画です。

収容所長のヨノイ大尉(坂本龍一)
ハラ軍曹(ビートたけし)
一番の主役のセリアズ少佐(デヴィッド・ボウイ)で、
セリアズの心の傷・・・弟への悔いが回想シーンで描かれます。

この映画は世界13ヵ国に配給され、国際的プロジェクトが組まれました。
当然「ハラキリ」を入れなければ外国人は満足しないでしょう。
2度ほど切腹の場面がありますが、描写は非常に穏健。
殆ど血が出ません。
切腹の介錯(かいしゃく)も形だけ。
首が転がることはありません。
(R指定を回避したのかと思われます)

ヨノイ大尉のセリアズ(ボウイ)への同性愛的愛情。
これが秘めた恋のように描かれ、セリアズがヨノイを慰めるかのように、
ヨノイの両方の頬にKissすると、なんとヨノイは失神するのです(?!)
(このシーンって日本男児にとってはプライドを傷つけられた、
恥をかかされたシーンなのだろうか?)
そこは正直なところよく分かりません。

日本軍の蛮行の描写もほどほどです。
(しかし俘虜を殴るシーンはとても多かったですね)
かと言って俘虜と日本国軍人ハラと通訳ロレンス中佐(トム・コンティ)
との友情も描き切れてはいるかと言うと、描き切れていない。
人間ドラマとして今ひとつ盛り上がりません。
タイトルは原題が「メリークリスマスMr.ローレンス」ですし、
邦題の「戦場のメリークリスマス」から、俘虜と日本軍人の
心の交流の生まれるシーン、
「クリスマスパーティ」などをを想像しました。
ところが胸熱のクリスマスシーンなんてどこにもでないのです。
セリアズが南国の花(ハイビスカス🌺の花弁)をむしゃむしゃ食べるのと、
酔っ払ったハラがセリアズとローレンスに、
「釈放だ!!釈放しろ!!」と叫ぶシーンが、ハイライト。

【セリアズの処刑シーン】
一体、デヴィッド・ボウイは何時間、
首だけ出して灼熱のジャワの熱した砂の
洞穴に埋められていたのでしょう?
大変な肉体的苦痛を我慢したのは確かです。
デヴィッド・ボウイはこの映画に命懸けで臨んでいました。

脚本的にポイントが絞れていない、
感動ポイントがない、
反戦を伝えたかったのか?
それも不明です。

龍一とボウイの圧倒的な存在感と美しさ。
意外にも坂本龍一は軍服が似合っています。
そして通訳のトム・コンティの確実な演技力。
そして一番の儲け役はたけし。

威張り散らしていても実は小心で人懐っこく憎めない男ハラ軍曹。
たけしの弾ける笑顔と坂本龍一のテーマ曲が流れるラスト。
このラストシーンこそが映画史に燦然と輝いていています。
ラストで余韻に浸れるのは名画の証拠。

一度は観ておくに相応しい印象的な日本映画でした。

琥珀糖
とみいじょんさんのコメント
2023年9月16日

お返事をありがとうございました。

たけしさんの最期の笑顔にやられます。本当に、教授とたけしさんを世界に知らしめた映画ですね。

解説やWikiによると、資金集めには難航したそうで、プロダクションも変わっています。そのため、初めに予定していた緒方さん等のスケジュールが合わなくなったとか。
 ボウイ氏は、2年間、スケジュールを空けて待っていたそうです。この役ならと思います。

では、よろしくお願いいたします。

とみいじょん
とみいじょんさんのコメント
2023年9月14日

『マダム・イン・ニューヨーク』に、共感とコメントをありがとうございました。

私はこの映画を先日DVDで鑑賞、先ほどレビューを投稿いたしました。

正直、初見では「なんでこの映画、賞候補になったのだろうか?有名人を起用したから?」と☆2くらいの感想でした。

貴レビューの「日本軍大尉や軍曹の横暴かつ野蛮な行いを、やや俯瞰から見た客間的に描写した映画です。」
「俘虜と日本国軍人ハラと通訳ロレンス中佐(トム・コンティ)との友情も描き切れてはいるかと言うと、描き切れていない。人間ドラマとして今ひとつ盛り上がりません。」
「脚本的にポイントが絞れていない、感動ポイントがない、反戦を伝えたかったのか?それも不明です。」
「龍一とボウイの圧倒的な存在感と美しさ。意外にも坂本龍一は軍服が似合っています。そして通訳のトム・コンティの確実な演技力。そして一番の儲け役はたけし。」
に共感いたしました。

クリスマスは私も勘違いしていて、あのキスがクリスマスのキスだと思っていました。そこから相互理解が始まるのかとも。ついでに、ボウイ氏がロレンスだと思っていましたから驚きました。

わけわからず、嫌悪感すら覚えるのに、ひきつけられる映画。不思議な映画だと思います。

『マダム・イン・ニューヨーク』に貴レビューが見つけられなかったので、こちらにお返事します。

「マダムが本当に美しくて、英語に苦労する様子が、身につまされました。」本当に。言葉ができないと、馬鹿にされる。悔しいです。

私は、まだインド映画のアクションは見ていないのですが、ダンスものも、こういう映画も好きです。

では、また。よろしくお願いします。

とみいじょん
pipiさんのコメント
2023年5月27日

ありがとうございます〜。

このレビュー書くためにわざわざ音声からテープ起こししちゃいましたw
少しでも興味のある方には1人でも多く彼らの「ナマの声」を知って頂きたくて。

カンヌ無冠だった事だけが今でも口惜しいですねー。
アカデミー賞には縁がなくても、フランス人にはウケそうな作風だと思うんですけどねぇ(笑)

pipi
レントさんのコメント
2023年4月24日

もし生まれてくる時代が違ったなら、殺しあうのではなく愛し合えたかもしれないと思うと切ないですね。

レント
満塁本塁打さんのコメント
2023年3月21日

他作へのいいねありがとうございました😊本作ほぼリアルタイムですが
煮え切らない ふわっとした 感じ を覚えています。
昭和世代にはお馴染みの大島渚監督【愛のコリーダは怖すぎて、いまだに未見 エロというより狂気】
芸術映画って言うのは こういうぼんやりした作品なんだなぁ!と衝撃受けました
同性愛にしてはエロがない 戦争映画にしては戦闘、残酷蛮行場面がない 不思議雰囲気作品でした

多分本当の後世への影響は 単なるお行儀の良くないお笑い毒舌人気タレントだった
ビートたけしが映像の世界に触れて感化された点

テーマ曲のメロディが超名曲でその後の映画音楽への影響大

という2点ですかねぇ。ありがとうございました😊【レビューは上げてませんすみません】

満塁本塁打
ブルーボイスさんのコメント
2023年3月12日

コメントありがとうございます。
レビューとても勉強になります。
これからも学ばせてください。
よろしくお願いいたします。

ブルーボイス
ぷにゃぷにゃさんのコメント
2023年3月11日

あたたかいコメントをありがとうございます。
多感な時期に観たものは、すごく心に残りますね。
大島渚の他の作品はあまり観ていないので、これはほんとに特別な映画です。
琥珀糖さんのレビュー、とても参考になりました。

ぷにゃぷにゃ