「男たち、美しく・・・」戦場のメリークリスマス pipiさんの映画レビュー(感想・評価)
男たち、美しく・・・
初めて完成されたラッシュを見た直後のタケシと教授のラジオ対談が物凄く面白かった。
「全然わからないね。これ見ていきなりわかる奴は相当頭良いかへそ曲がりだね」
「ボク、自分でやっててわからなかったもん。音楽、これからやるんだけどさ。あれを2時間7分、観れるものにするには相当な技が必要だよね」
「俺、ドラマの制作とか演出の方やろうかと思って。やっぱり監督だね。ラッシュ、あれは恥ずかしいね」
「大変に落ち込みましたよ?私は」
「俺も凄い落ち込んだもん。カッコ悪いよ、あれは。宇崎竜童と話してたらさ『映画って自分じゃ恥ずかしくて隠してるとこを大写しにされるからショック凄いんだ』って言ってた。1番自分で嫌な部分を拾ってくる。それが意外といい監督とされてる奴に多いんだって」
「じゃ、いいのかな?」
「坂本っちゃんが1番嫌だと思ってる部分が好評を博すって事もあるよね」
「フィルム、盗んでこようかと思ったんだけど?」
「俺も思った(笑)燃やそうかと思った。映画って残るから嫌だね。」
などと「わからない」を連呼しつつ2人は確実に本作をメルクマールとし、更なる飛躍を遂げていく。
苦心惨憺の末、奇跡的な名曲を生み出す教授。戦メリ以降、彼は様々な映画音楽を手がけていく。
ハラには「荒っぽいが瞳の美しさが印象的。聡明で無邪気。圧倒的な存在感」という、後の北野映画で繰り返し登場する主人公の原型が見出せる。
(「プレステージ」のテスラ役にデビッド・ボウイが起用されたのには、本作をノーラン監督が非常に高く評価している事も遠因であると思う。)
「反戦」「西洋と東洋の融和」
「極限状態での人と人とのつながり」
「愛・友情」「制約や縛り、自由と解放」
「耽美・唯美主義」
など、いくつかのテーマが色濃く見える本作だが、インパクトの強すぎる表面的な耽美(たけしに言わせると「一大オカマ大会」(笑))に惑わされて、反戦や愛が見えにくい。
そのくせ、インタビューや書評では誰しもが耽美にはさほど触れず、反戦や愛ばかりを語るのもおかしなものだ(笑)
当時の日本軍において、俘虜は人間扱いする対象ではなかった。侮蔑、唾棄すべき鬼畜であった。
そのような俘虜であるにも関わらず、実直で自他共に対し厳格な姿勢に徹するヨノイ大尉に慕情を抱かせるだけの魅力を有するからには
「強く、美しく、勇敢で、聡明。かつ義侠心溢れる英雄」が必要だった。デビッド・ボウイは見事に大役を果たしてくれる。
職業俳優ではなく、芝居ド素人の坂本とタケシを起用した監督の英断には賛否両論あるが、私は「成功」していると思う。
棒読みにも近い素人ぽさが、ドキュメンタリーにも似た印象を与えている。
意思や感情をどんどん表に表現していくデビッド・ボウイやたけしに対して、教授は自分の中に深く深く沈み込んでいき、あまり表立ってハッキリは出さないスタイルだ。そんな本人達の資質と役柄が見事にリンクしていたのだろう。彼らは演じずとも「本質的な自分」でいさえすれば、それで良かったのだ。
(そしてそれを見抜く大島監督の凄さだ!)
ユニセックスなボウイと坂本の絡むシーンはあまりにも蠱惑的だ。
耽美主義とは
「そこに込められた思想やメッセージよりも形態と色彩の美に価値を置く」芸術思潮だが、この妖しく退廃的な雰囲気が本作の独特な魅力を醸し出している。
(ドキュメンタリーぽさが、ヨノイの初心(ウブ)な処女(おとめ)っぽさを最高に際立たせている!)
フランスやイギリス、イタリアで大好評を博するのも、むべなるかな。
(反対に、ロバート・レッドフォードが「アメリカ人には理解出来ない」とオファーを断ったのもわかる気はする)
カンヌでは事前記者会見に各国記者などが3000人も集まっていた。評論家や観客に対しては間違いなくウケは良かったのだ!
審査員の観点はまた違うのか?
2作品受賞の年もあるし、何も取れなかったというのは、やはり何か否定的思惑が審査員達の中にあったのだろうねぇ・・・。
教授は曲について、こんな解説をしている。
「(Merry Christmas Mr.Lawrenceは)間違った和音ともいえるんですね。ちょっと日本やガムラン音楽のような響きと共通性がある。東洋的、アジア的な響き。だけど、その下にはわりとはっきりヨーロッパ的な和音が支えていると」
根底にしっかり西洋の和音を配し、表面に東洋の響きを融和させる。
本作もまた、根底にしっかり「反戦」を配し、表面に「愛」と「耽美」の響きを融和させる事で、具体的な戦闘シーンを描く以上に、力強いメッセージを語りかけてくる。
抽象的なアートとする事で、より深く、より大きなテーマを表現する事に成功したように思う。
※ 昨今の「BL」「腐女子」なる単語に代表される風潮は「男性同士」という表面だけを掬った低俗サブカルチャーに成り下がり「耽美」の系譜からすっかり外れてしまったように感じる。(読んではいないので、的外れならば謝罪しておくが)
耽美とは、オスカー・ワイルドに始まり、ボードレール、マルキ・ド・サド、マゾッホ、エドガー・アラン・ポー、ジャン・コクトー、森鴎外、谷崎潤一郎、江戸川乱歩、澁澤龍彦なのだ。
映画ならば「ベニスに死す」のヴィスコンティ。
そして音楽ならば、グラムロックの騎手、まさにデビッド・ボウイその人なのだ。
青池保子、萩尾望都、竹宮恵子、木原敏江、山岸涼子、坂田靖子、佐藤史生、栗本薫、魔夜峰央、本橋馨子をこよなく愛するワタクシとしては、戦メリがBLという形容で語られる事がないように強く祈るものである。
(無理でしょうねぇ、、、嘆息)
「サウンドストリート」ですか。物凄くなつかしいです!
渋谷陽一さん以外のDJの方は忘れてしまいました。
あの番組は、私の洋楽の原点です。いまだにブルース・スプリングスティーンやツェッペリン好きなのも、渋谷さんの影響です。(その後、すっかり聞かなくなりましたが)
教授もDJされていたんですね。YMO全盛の頃でしょうか。
そういえば、甲斐よしひろさんや武田鉄矢さんもされていたような、されていなかったような。
いやいや、思い出してみると、武田さんの紹介でボブ・ディランを聞くようになりましたね。確か。(古い思い出)
テープ起こしということは、エアチェック(なつかしい単語)されていたということですね。
当時、「NHK夕べのひととき」(という名前だったかなあ)という番組がありまして、新譜のほとんどをかけてくれたり、というのが、あったような、なかったような・・・。
先日、本作を映画館で初めて見て、この映画に対する印象がずいぶん変わりました。
このレビューのタケシと教授のやり取り、とてもおもしろかったです。
レビューを読むことによって、その映画のよさをさらに認識したり、また見たくなるというのか、いかにそのレビューが力を持つかという証明ですね。
ありがとうございました。
ゆうさん
コメントありがとうございます〜。
この対談は封切り半年前頃。NHKFMサウンドストリートの火曜日、教授がDJ担当だった時のものです。
編集前のラッシュじゃ余計に全然わからないですよねw
当時、音楽番組は片っ端からエアチェックしてラジカセのタイマーかけて録音してましたー。
たまにアルバム1枚全曲丸々流してくれる事もあったので重宝していました。
40年も経った今、まさか映画レビューの為にテープ起こしすることになるとは考えもしませんでしたが。(笑)
pipiさま
読んで頂けたのなら、とても光栄です。
当時のたけしと教授の対談の模様など、
そういう捉え方をおふたりはしていたのですね。長年心の底で気にしていた
「戦場のメリークリスマス」
観てなかったこと、そして遅ればせではありますが、観て良かったです。
ありがとうございます。
pipiさん、コメントありがとうございました。
いやぁ~、まさかあんなレビューで筋少ネタをわかってくださる方が現れるとはなぁ~
でした(笑)
私的ベスト5には残念ながらランクインさせていないこの作品ですが、ベスト10には確実に入っている作品です。
とにかく音楽!音楽が秀逸すぎます!
常々映画の評価の70%は音楽で決まると思ってるです。
名作の音楽は、もれなく単調なメロディーの繰り返しが脳裏に焼き付いて離れないです。
そして、それが脳内再生されるたびに、映画の絵も思い出して酔いしれるです。
さすがプロフェッサー坂本!といった感で大変に素晴らしかったです。
もちろん、デビッド‣ボウィとのW主演の演技もです。
大変美しい映画でしたよね。
女装のくせして、男同士の“アレ”な感情はよくわからないのですが(笑)
子犬のような純粋な瞳のたけしさんのドアップの強烈な絵面も忘れられないです。
pipiさんへ
小生の拙い投稿に「♥共感」等を頂き大変恐縮いたしております。
「隠された十字架」は私にとっても大切な本ですが、法隆寺再建についての話をNOBUさん宛のコメントとして記述させていただきましたので宜しければ御覧下さい。今後共、映画.comでのお付き合いの程、宜しくお願いいたします。
コメントありがとうございます。
キスシーンはフィルム事故で偶然ボケて撮れてしまい大島渚が「奇跡だった」て言っていたことは、鑑賞後に映画館内にあった大島渚特集で知りました。
黒澤明「乱」の決闘シーン、クリストファーノーラン「ダークナイト」のラストシーンなど、偶然がビシッと決めたショットは少なからず存在していて、やはりカリスマ性のもたらす「目に見えない力」は確かにあると思います。
「日出処の天子」も好きですが、あれは読み始めると、止められなくなり危険です。ついでに、梅原猛の「隠された十字架」も中学生の頃、読んでいたなあ・・。梅原日本史、好きでした・・。
今晩は
又しても、凄いレビューですね。
”萩尾望都、竹宮恵子、木原敏江、山岸涼子、坂田靖子、佐藤史生、栗本薫、魔夜峰央”のうち、特に愛読しているのは坂田靖子さんの「バジル氏の優雅な生活」です。山岸涼子さんもほぼ全作好きです。(昨日、”ウンディーネ”に着想を得た映画を観たばかり・・)
”耽美とは・・”に挙げられてた作家は全て好きですが、赤江瀑も是非加えて頂きたく。
「戦場のメリークリスマス」は、何度観た事か・・。BLと言う言葉が無かった時に最初、観ましたが、捕虜になった英国陸軍少尉セリアズの数々の行為は、人間としての尊厳を保つ行為であり、その揺るぎない想いにヨノイ大尉は圧倒されたのだろう・・、と今では思っています。
それにしても、劇場に行くと坂本教授の蠱惑的なあのメロディが流れていており・・、困っています・・。
坂本教授及びYMO及びデヴィッド・シルビアン(含むJAPAN)の世界に遅ればせながら痺れた世代ですので・・。