劇場公開日 1974年7月13日

「あなたはどうするのか?それがテーマだ」セルピコ あき240さんの映画レビュー(感想・評価)

4.5あなたはどうするのか?それがテーマだ

2018年12月10日
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観終わった後の重さは凄まじいものがある
刑事ものではあるがアクションでも謎解きでもない
NY市警の腐敗を告発する刑事の物語だと一言の説明で終る
一体どのような腐敗であり、どのような構造であり、主人公の活躍によってどの様にそれは克服されるのか
もちろんそれは映画の中で語られる
しかし、本作の主題はそこではない

不正を前にした時、一人の人間としてどのように感じ、どのように折り合いをつけるのか
あなたならどうするのか?
本作はセルピコはこうしたという一例を示しただけであって、観終わった私達にはその疑問が突き付けられているのだ

だからセルピコ刑事の伝記映画の様でそうではない
人間としてのあなた自身の在り方を問う映画なのだ
あなたならどうするのか?と

それゆえに本作製作時に監督が交代させられ、「怒れる12人の男達」で有名なエルメット監督が撮ることになったわけだ

東芝の不正経理、日産のゴーン会長の逮捕
あなたもこのような現場に身を置くことがあるかも知れない
あなたは本作の登場人物の誰なのか?
娘がオペラのコーラスで金がかかるんだと話す警官だろうか?
報告を受けて放置する管理職だろうか
他人事みたいに誰々を紹介すると言うだけか

日本は同調圧力の強い社会だ
あなたはそれに逆らえる勇気が有るのか
同僚、上司を全て敵に回して孤独に生きる精神力が有るのか
地位や職を失い、家族をどう養ったら良いのかという恐怖に打ち勝てるのだろうか

本作を観終わった後、のしかかる重さはこの問いかけに答えなければならない重さなのだ

セルピコは仲間を裏切ってはいない
なぜなら最初から腐敗警官の仲間になったこと自体なかったからだ
いわば汚い水の入った風呂桶に浸けられていたのだ
ならば、その風呂桶にから出て汚い水を捨てて入れ替えるしかないではないか
彼は裏切ってなぞいない
裏切っているのは周囲の警官達全員の方なのだ
当たり前のことだ

しかし、その孤独、危険は彼自身の精神を追い詰めた上に、最終的に肉体的な危険にされらされたのだ
彼の苦悩をアル・パチーノは見事な熱演でそれを表現している

ラストシーンはセルピコが大型客船が停泊する埠頭に佇むシーンで終る
平和な暮らしが約束されるであろうが、もうこの街には居られないのだという見事な映像表現での終わり方であった

あなたはどうするのか?

あき240