真夜中の弥次さん喜多さん : 映画評論・批評
2005年4月1日更新
2005年4月2日よりシネマライズほかにてロードショー
リアリズム志向の時代劇復活をちゃぶ台返し
僕は宮藤官九郎の熱心なファンというわけじゃないが、この彼の初監督作品については腹を抱えて笑えた。つまり、僕はほぼ完全に本作にノってしまったのだ。なぜなのか?
一部に時代劇復活の気運があるとの意見がある。僕は一連の山田洋次作品を全否定する気もないけど、そこでの“復活”は、リアリズム志向で、幕末の下級武士は今のサラリーマンみたいに苦労していたんです……といった“美徳”の話に落ちつく。で、クドカンは、そんなリアリズムを基調とした“時代劇復活”の動きを爽快にも根底から引っくり返してくれる。
なにせ、本作での弥次さん喜多さんは感動的なまでに熱愛カップルであり、伊勢へ旅立つときに「イージーライダー」ばりにハーレーダビッドソンで江戸を出発。やっぱりバイクで追いかけてきた岡っ引きに「今は、江戸時代だ、歩いて行きやがれ!」と嗜められる始末だ。
では、単に笑って見てればいい娯楽作品なのかといえばそうとも言いきれず、意外に(?)奥深い映画だと僕は思う。好演する2人のなかでも、とりわけすばらしい中村七之助はヤク中(!)という設定だが、彼の目に江戸の全てが「薄っぺら」で、要するに「リヤルじゃねえ」と映る。これは僕らが現在の東京に抱く感慨とそっくりじゃないか?
(北小路隆志)