ヴィドック : 映画評論・批評
2001年12月27日更新
2002年1月12日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー
「エイリアン」の人間繭を思わせる「皮膚世界」はおぞましくも美しい
19世紀フランスで初めて「私立探偵」という職業が成立した。よろず相談役に近いものだが、栄えある第1号となったのが、犯罪者から警察特務班のトップへのぼりつめるという数奇な過去を持つヴィドックという男である。
このヴィドックがパリの怪奇連続犯罪者=錬金術師に挑戦するというのが、映画「ヴィドック」だ。主人公が膨らみに膨らんだパンク寸前のごときドパルデュー。今思い出そうとしているのだが、ビジュアルに気をとられてヴィドックがなにか喋ったかどうか、記憶にないのというぐらい不思議な作品である。主役がほとんど記憶に残らないというのもすごい。
歴史ものというよりも、デジタル・カメラで全編を撮影、さらに加工をくわえた画面はSF的である。こってりとしたヘビメタ・ゴシックの感触は製作チームが「デリカテッセン」、「ロスト・チルドレン」、「エイリアン4」に集った連中だといえば理解できるだろう。「エイリアン」の人間繭を思わせ、もっと壮大な規模で構築された皮膚世界はおぞましいと同時に美しく、「ヴィドック」最高のビジュアルの見せ場だ。
(角川文庫から出たノベライズ「ヴィドック」の解説を書いているのでそちらもぜひお読みください)
(滝本誠)