ヴェロニカ・ゲリン : 映画評論・批評
2004年6月1日更新
2004年5月29日より恵比寿ガーデンシネマほかにてロードショー
「聖女」像の背後にある「普通の女」の弱さや怯え
ガラドリエルの奥方から娘を誘拐された母親へ、そして、もうすぐキャサリン・ヘプバーンに変身……ケイト・ブランシェットの勢いは2児の母になっても収まる気配なし。この映画でも一枚看板でタイトル・ロールを演じ、ノッてる役者特有のオーラを画面に発散させている。
ヴェロニカ・ゲリンはアイルランドに実在したジャーナリスト。96年、麻薬犯罪の実態を取材中、組織の凶弾に倒れた。享年37歳。ダブリン城には<勇気の象徴>として彼女の記念碑がある。が、映画は冒頭から彼女のダメっぷりを描いて、ジャンヌ・ダルク的イメージをまず払拭。妻として、母として、彼女がいかに普通の女性であったかを強調する。「普通」だったからこそ、子供たちをも蝕む麻薬禍を見過ごすことができなかったのだ、と。
彼女の取材は最終的に組織の首謀者、ジョン・ギリガンに迫るのだが、彼の屋敷に単身で乗り込むシーンが凄い。「C***」という女性器を意味する卑語と暴力。男まさりのヴェロニカが自身の非力に直面する瞬間だ。だがここで、観客との距離がぐっと縮まる。「聖女」像の背後にある「普通の女」の弱さや怯え。それが、この映画を単なる社会派以上のドラマにしているのだ。
(田畑裕美)