「異常な傑作!」スワロウテイル あき240さんの映画レビュー(感想・評価)
異常な傑作!
スワロウテイル
1996年
岩井俊二監督
異常な傑作!
今は2025年、1996年はついこの間のことのように思えます
なのに30年近い年月が流れ去っているのです
日本人が知らない世界
いや見ようともしなかった世界
いや見たく無かった世界
それを30年も前に既に映画にしていた事実に驚愕します
いまはもう誰の目にも見えるようになってしまいました
見たくなくても、否応なく目に入る大きさになったからです
監督は30年前にここまで見通していたのです
こんな日本になるなんて誰も予想してなかった、思いもしなかったそんな昔に具体的に見えていたのです
そしてそれを淡々と描いているのです
もちろん映画ですから大袈裟に大胆に誇張してはいます
日本人よりも円都の住民達の方に共感を持って
円タウンの住民達が全員本作の登場人物のような人々ではないのはもちろんのことです
でも本作の世界はもう現実の日本です
円都はもう実在しています
埼玉の某市?
奇しくもCHARA の出身地は埼玉県川口市と知りました
公開時28歳、2025年57歳
それ程までに時間は流れたのです
グリコ
大阪道頓堀のグリコの看板の下は
最近グリ下とよばれて、東京歌舞伎町のトー横の様なところです
この間、地元の駅前でジャージ姿で自転車をこぐ若い女性二人を見かけました
グリコとアゲハに少し似ているように思いました
いまや日本中にミニ円タウンはあるのです
本作のストーリー、一応は偽札のデータに絡む犯罪物です
いつの頃でもない近未来の日本が舞台という建て前でした
日本語がベースだけども殆どは中国語か英語なのでほぼ全篇字幕だらけです
本作の英語題名にはスワロウテイルにバタフライの文言があります
それはグリコの胸のタトゥーのこと
死んでも私だと判るように
言わば私のIDカードってところねと台詞にありました
そしてアンタ子供だからイモムシね
でもアゲハよとマジックで落書きします
アゲハ蝶を映画で言うとスワロウテイルなのよ
イモムシは誰もが忌み嫌う存在
でもいつか羽化して美しいアゲハになるのです
いや折角アゲハになったのに狭くて暗いトイレに閉じ込められて、それを罪の意識もなく、潰していまう子供の記憶のようにされているのかも知れません
そして劇中の台詞が心に残りました
「入れ墨は体に別の生き物を飼うようなものもんだ
そいつが人格を変えてしまうこともある
そして運命さえも」
入れ墨はマジックの落書きみたいに消せはしません
移民も同じです
日本で生まれて育って帰る国を持たない人達を無かったことにはできはしないし、彼等は彼等の人生と運命を持っている
それが日本の社会と運命を変えてしまうことの重大性にようやく日本人が気付いてきたのが2025年の今です
内臓の中から出て来たカセットテープは、文字どおり腹の底の底の本音です
楽して金を得たい
それは日本人もエンタウンの住民も同じ
闇バイトがあるのがその証拠
彼等の歌うマイウェイ
彼等には彼等のマイウェイがあるのです
日本人とは別の人格なのは当たり前の事
円高を調べてみました
本作公開の約1年半前の1995年4月19日、1973年に変動相場制が導入されて以来の円の最高値となる1ドル79.75円を記録しました
それでどうなった?
それが本作の世界です
架空の世界です、空想の未来のはずでした
でも2025年の私達は今の本当の日本だと見えます
公開当時はこのような未来になるなんて、想像の遥か遥か先の事でした
パトレイバーは本作に先立つ8年前1989年のアニメ映画
源流はもちろん1982年のブレード・ランナーです
でも、それは単にイメージの援用にしか過ぎません
その先は?
2011年10月31日、75円32銭の戦後最高値を記録しました
本作以上の円高になったのです
その後円は100円から120円程の間で上下を繰り返していましたが、近年は円安傾向となり、しかもアジアの国々も豊かになりました
それで円タウンはもはや過去の話になったでしょうか?
それでも遠くの国からはまだまだ日本の円を求めてくる人々が多いのはご存知のとおり
冒頭は落日のシーン
どこの?円都?写っているのは実際の東京です
円高は国力の反映です
しかし行き過ぎた円高は輸出産業を斜陽化させ、産業を空洞化させました
また輸出競争力の為に賃金を低下させ、貧困化が進みました
それが落日の意味に込められています
監督の予言です
失われた30年の正体です
そして今度は円安
昨年2024年に160円の記録をつけています
今も本作公開当時の109円代とは様変わりの円安基調です
短期的な輸出は延びて景気にはプラスですが国力の低下が反映されている不安を感じます
輸入品は食料始め値上がりして、全ての物価が上がり始めました
日本人が円タウンの住民のようになりつつあります
ラストシーン
千円札を投げ捨て燃やしつくす
そして落日に向けて弔銃を放つ
エンタウン
縁タウン
円の切れ目は縁の切れ目
日本人じゃないと疎外される人々
円が力を失った時、アジアや世界から疎外されるのは日本人なのかも知れません
新紙幣
劇中の千円札は1984年の夏目漱石の新紙幣
昨年2024年、20年ぶりに新紙幣が発行されました
今の1万円札は渋沢栄一
劇中の1万円札は福沢諭吉
本作で劇中の福沢諭吉の写真は遺影の様に黒枠の中におさまっています
円の死の予言です
本作の冒頭は落日の後に続くその時点では謎の女性の不思議な葬式でした
監督の予言が外れて欲しいと願いました