タイタス : 映画評論・批評
2000年11月15日更新
2000年11月25日よりみゆき座ほかにてロードショー
「ライオンキング」の演出家が放つ異色シェイクスピア劇
監督のジュリー・テイモアは舞台の「ライオンキング」の演出を手掛け、これが映画デビューだという。なるほど時空を操る演出、大仰な舞台装置、絢爛豪華なコスチュームなどは、その舞台色が極めて強い。つまり彼女(そう、女流監督なのだ!)、自分のフィールドで勝負をしようとしているのだ。これは賢い選択だった。時空が入り乱れようと決して混乱することはなく、ロケとセットの使い分けも巧み。時代の交錯する衣装や美術も確固たる美意識で貫かれ、アートのような美しささえ醸し出している。愛情と憎悪、血と肉と涙がふんだんに盛り込まれた悲劇をそのまま描くのではなく、ブラックなピカレスク・ドラマとして見せたところも上手い。相当にエグい物語が口当たりのいいそれに変わっているのだ。
美術にフェデリコ・フェリーニ作品のダンテ・フェレッティを起用しているところを見ると、おそらく彼女の目指した世界は、そのフェリーニだったのだと思う。確かに、かなりがんばってはいるのだが、決定的な差を無視するわけにはいかない。頽廃、これがこの映画からは漂ってこないのだ。ま、それを米国人で、しかもまだ48歳の女性に求めるのは酷というものだけど。
(渡辺麻紀)