「缶詰を抱えて歩く姿」戦場のピアニスト ほしさんの映画レビュー(感想・評価)
缶詰を抱えて歩く姿
舞台は第二次世界大戦下のポーランド、ワルシャワ。
ナチスドイツの侵攻によって、ユダヤ人への迫害は加速していきます。
初めて鑑賞した際は知識もなく、ただただナチスドイツによる侵攻がどんな結果を招いたか、ユダヤ人がどんなに酷い目にあったのかを目の当たりにする作品だと思っていました。
その衝撃を胸に、今回この作品をもう一度見て
本当に伝えたいことは別のところにあったと気がつきました。
昨日まで誰に許可されるでもなく営んでいた生活が、徐々に侵されていく恐怖。
道端に転がる子どもや老人の死体。
ドイツ兵の独断で順々に人が撃たれていく中、逃げることもできずただ死を待つしかない時間。
飢えていても食べ物を探しにいくこともできない主人公。
缶詰を抱えて歩く姿が目に焼き付きました。
作中、余計な綺麗事は一切なく、ただ生々しく
"差別というものへの恐怖"を思い知らされる作品でした。
自国を愛し、自分のルーツに誇りを持つことは構わない。
しかしそれは行き過ぎると、自国や自分自身を正当化するために異なる人種や宗教を持つ相手への否定に繋がっていきかねない。
ドイツ将校の彼が、シュピルマンの奏でるピアノの音色を聴いて最後の救いの人となったように
個人に目を向け、耳を傾けることで自分の中の差別と向き合ってみることが最初の一歩なのではないかと思います。
また、主演のエイドリアン・ブロディの演技力にも脱帽です。
ピアニストという芸術家の繊細さを身に纏う好青年が
痩せ細り、徐々に正気を失っていく姿がとても切なく
史実に基づいたストーリーをよりリアルに感じさせてくれました。
この撮影後、彼は相当な鬱状態に悩まされたというインタビューを読みました。
演技のために必要以上に心身を削ることはあまり良いことと思いませんが、それだけに彼の演技が神がかっています。
監督の問題もあり、あまり表立ってオススメはできませんが
一生に一度は観てほしい作品です。