ストレンジャー・ザン・パラダイスのレビュー・感想・評価
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今振り返ってみても、ジャームッシュ監督の一貫した作風が実感できる一作
本作は、『ダウン・バイ・ロー』(1986)や『ミステリー・トレイン』(1989)、『ナイト・オン・ザ・プラネット』(1991)など、いわゆる「ミニシアター系」の映画ファンからの絶大な支持を集め続けているジム・ジャームッシュの、劇場公開長編の初監督作にして、代表作の一つです。
故郷ハンガリーからやってきた親戚のエヴァ(エスター・バリント)を引き受けることになった賭博中毒気味のウィリー(ジョン・ルーリー)、そして彼の友人エディ(リチャード・エドソン)の3人がフロリダへと旅立つ……のが大まかなストーリーです。
賭博好きだが別に強運なわけでもない二人なわけだから、当然十分な資金があるわけでなく、宿泊先も古びた安モーテル。これじゃあエヴァじゃなくても機嫌を損ねるところですが、二人はどこ吹く風。このような展開を見せる物語は、ロードムービーとしても十分面白いんですが、この、心が通っているんだかいないんだかよく分からない関係の描写が、いかにもジャームッシュ監督の作品です。
一見即興的な演技ですが、実は入念な筋立てとリハーサルの裏付けがあるとのことで、演出でこんなとぼけた感じ出してんの?とむしろ感心するほど。
撮影するフィルムが不足していて、無駄な撮影をする余裕がなかったことから編み出した作劇術という点も興味深いです。中盤のあるエピソードは、通常ではかなりありがちな落ちなんですが、本作の雰囲気では笑って受け入れてしまえるところが不思議で、そこから意表を突くラストに至って、急にスピード感がますところも良いです!
人間くさいおかしみを抱えた主人公たちが、心をくすぐる一本
大学4年の秋、のちに妻となる彼女との初デートで鑑賞した作品。37年ぶりで、内容はうろ覚えだったため、新鮮な気持ちで見ることができた。
3人が3人とも、自分勝手さと相手を思う気持ちのアンバランスさを抱えているのだが、それが、なんとも人間くさいおかしみがあって、心をくすぐってくる。
携帯も、ネットもなく、電話は一家に一台で、出かける時は、書き置き必須。それらは、日常生活ではリアルで、かつての自分自身にとっては当たり前だったはずのことなのに、映画を見ているうちに、とても遠い昔の夢をみているような気持ちになった。当時を経験している自分ですらそうなのだから、情報化社会の今にあって、当時とは確実に変わった人間関係が当たり前の人たちにとっては、理解不能な映画かもしれないとも思う。
けれど、決して多くはない登場人物たちの誰もが愛すべき側面を持ち、思わずくすっと笑ってしまうような場面が散りばめられた、やっぱり素敵な映画だった。
「ここは退屈よ」
最初は少し座り心地の良くない椅子に座った感覚。しかし座り方が分かってくると、何とも心地良い椅子に成る。変な喩えをしてしまったが、そんな体験をさせてくれた映画。
アメリカというより東欧の何処かの国といった舞台や衣装。終始だらだらと進むストーリー。おまけに登場人物は上っ面のことしか喋らない。
しかし、ちょっとした仕草や間の取り方、独特なテンポや雰囲気が作る視聴者との絶妙な距離感が心地良い。
居心地の悪さを抱える三人。二人だとバランスが悪いが、三人でいることで何とかバランスを取って非日常へと旅に出る。その中で、自分は何をしているのかとそれぞれに自問したのだろう。一人の脱落を切っ掛けに、そのまま解散となる。
一昔前の映画なら、銀行強盗して銃を撃ちまくりながらパトカーとカーチェイスしそうな設定だが、そんな自分達の閉塞感を発散させるような映画ではない。
暇を持て余していた頃に格好いいと思っていた空気感を思い出しつつ、ラストシーンを見てクスッと笑い、大きく伸びをしてから日常に帰る。
さんざんハンガリー語で捲し立てながら、最後に英語のスラングを吐き捨てるおばさんが良い。
カッコよかった
確か高校生の時に一度鑑賞していて、約30年ぶりに再鑑賞しました。当時は映画の鑑賞数もたかが知れていたので映画の見方も意味も分からなかったのですが、カッコ良さだけは分かりました。サブカル雑誌でも良く紹介されてましたし。
映画鑑賞もそこそこ重ねてきたこの歳で再鑑賞したら、やはりユニークな作品であり、ユニークな監督だなと。淡々としてますが、どこか非日常的なカメラなんですよね。日常に小さな物語があって、それを切り取って、貼ってみたいな。それに、ワンカットワンカットが画になる。そりゃあ、ポスターもポストカードも売れるわけですね。
アメリカでは移民が混じり合って生活してますが、日本で報道されるアメリカカルチャーはベタなものが多いので、本作の様な作品は貴重だと思います。ニューシネマの様にアンチヒーローを描いてはいませんが、本作はヒーローが不在でありハンガリー人が主役だったので、ある意味ニューシネマっぽくもあり影響受けているのかもしれませんね。もっともニューシネマの影響を受けていない監督はいないとは思いますが。
いとこ
いとこ
ハンガリーからニューヨークの いとこウィリーを頼って転がり込んできたエヴァ。
1年後その従兄妹を探してクリーブランドまで旅をするウィリーのお話し。
+ + +
従兄妹、いますか?
どこに? 何人?
従兄弟・従兄妹って、特別に不思議な関係だと思う。
あれは、僕らに近すぎる親きょうだいでもないし、遠すぎる友達でもない。
ただの親友とかいうのでもないし、もちろん恋人になることなどありえない。
なんだかふわふわした宙ぶらりんな関係。
でも血がつながってるという。
小さい頃、いとことは夏休みに何度か会ってはいても特別な用事=お葬式とか結婚式とか=でなければ滅多に顔を合わせることもないね。
でも、どれだけ遠くにあっても忘れたりすることなど決してない、いとこは独特の存在だ。
なぜなら
どんな親に育てられて、どんなふうに育ってきたのか、そしてたぶんどんなふうにその親に苦労して大きくなってきたのか、僕らは彼らを知っている・・
「同じにおいがする」から。
いとこ同士は、言葉無用で、お互いの境遇を感じ取ってくれる=わかってくれる特別な存在なんだ。
「同じにおいがする」んだよ。
エヴァは髪はくしゃくしゃ。愛想は悪い。変てこなミュージック・テープをかける。気に入らないよね。でも音楽の趣味は違っていても、ずっと気になる存在なんだよ。
目で追う、心で追う、
幸せであってほしいと
いとこの姿を追いかけてしまうのさ。
従兄妹の不遇を救うために人生のかなりの部分を費やして援助しちまったアホな男(=僕のことなんですけど)には、それがよくわかる。
ウィリーは馬鹿な兄貴だ。
でもエヴァは嬉しくって幸せだったのではないだろうか。
短いシーンごとに画面が暗転する、
どこで THE END の文字が出ても違和感なく味わい深い。
これは、どれだけ盛り上がっても不思議ではない各エピソードでも、すべて毎度一旦暗転させながら物語を”賢者タイム“に戻させている。鎮静作用。性愛には発展させない。
監督は映画全体を地味で、しかし滋味あふれる静かなロード・ムービーに仕上げた。
「初めて来たのに同じ景色だ」
「どこかで見たような部屋ね」
ドラマチックでない日常と既視感がこの「いとこの映画」を僕のものにしてくれる。
あと、
ジム・ジャームッシュの配役にはいつも気のいい友だちがついてくる。
そこがまたとてもいいんだ。
やさぐれた余韻がいいんだよ。
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ふと劇中の、
ファッションが気になって再見。
モヘアのニット、ベロアのジャージー、スニーカーとグランジ風のファッションが格好いい。
服のセンスが合わない、音楽が気に入らない、言葉がわからない…
そんな彼らを繋ぎ合わせているのは"楽園"アメリカで孤独になりたくないという感情か。
ただ、実際に大抵の友人関係とはそんなものだし、それでもふとした瞬間に体験を共有できて一緒に笑ったり怒ったりできる。
それでいいのだ、と思わせてくれる映画。
少し切ない余韻が残る。
これが実に心地良い
まず、こうしてスクリーンで観れた事を嬉しく思う。一体何年ぶりなの鑑賞なのだろう?
長篇第一作でジャームッシュの代表作、当時とても革新的な作品だったと記憶している。
どのカットも美しく実に絵になる、それが全編なのだからすごい。
ホーキンスの「I Put a Spell on You」を始め、音楽達も実に良いんですよね。
三人の漂うような時間を切り取った作品で、緩急のあるストーリーラインでは無いのですがこれが実に心地良い。
長回しや暗転カットも作品にとてもマッチしている。
小津安二郎へのオマージュも日本人的にはクスリとしてしまいますね。
ラストも何て子気味良いんだろう。
本当スクリーンで観れて良かった、とても素敵な作品です。
JIM JARMUSCH Retrospective 2021 こ...
JIM JARMUSCH Retrospective 2021
この映画のポスターや写真はほんとどれもカッコいい。映画全体を通しての雰囲気が好き。少しずつ変化していく3人の関係、そしてラストの展開に思わずにんまりしてしまう。
【旅②/Strange(r)を巡るストーリー/集うことの面白さ】
ジム・ジャームッシュのデビューから6番めまでの作品は、全て旅がモチーフだと思う。
出会い/集い、良し悪しではなく、その成り行きを見つめているのだ。
そして、出会い/集い、旅するのは、僕達のことではないのか。
(※ これら6作品のレビューは書き出しが同じです。すみません。)
この「ストレンジャー・ザン・パラダイス」で、僕が一番好きな場面は、エディが空港の駐車場で、車の横にたたずみ、飛び立つ飛行機を見て、「あー、思った通りだよ!」って、嘆きながら車に乗り込むシーンだ。
僕も、案の定と笑ってしまう。
飛び立つ飛行機をエディが見上げるアングルと、飛行機の離陸したアングルが絶妙なバランスでかっこいいのだ。
そして、エヴァはモーテルの部屋に戻り....。
ハンガリーからNYにやってきたストレンジャー(よそ者)のエヴァ。
NYでストレンジャーであることを知られないようにやっているウィリー。
ストレンジャーではないエディ。
クリーブランドにいる祖母はアメリカでストレンジャーであることを隠そうともしない。誇りにすら思っている。
それぞれ異なるストレンジャーに対する立場。
この映画のタイトルは、この「よそ者」という意味の「stranger」と、これにthanを続けることによって、パラダイスより、もっと面白い(stranger)という意味で2つをかけ合わせたのではないのだろうかと、僕は思っている。
アメリカでは、悪意のある「変」という意味で、weirdが使われるが、strange の場合、どちらかというとニュートラルな感じの「変」で、不思議な感じの意味もあるから、興味深く斜めの視線で見つめられている感じだと思うのだ。そう意味では、funny とは違うのだ。
この3人プラス1(祖母)の関係は確かに見ていて不思議だし、なんか面白い。
ただ、嫌な感じでは決してない。
そして、比べられるものが、なぜパラダイスなのか。
最期のチャプターで、3人の向かう先が、憧れの温暖な地・フロリダで、そんな「パラダイス」的な印象からだと思うが、実は、そんなことは思い込みで、季節によっては、陽光なんてないし、ギャンブルで金はすられるは、麻薬の売買が横行してるわで、それこそ、weirdなところなのだ。
それより、こっちの3人の方が、なんかチグハグで不思議で、変な気がする。
ただ、この映画については、もしかしたら、この3人プラス1を受け入れるアメリカ自体が、面白いところだと、さりげなく示唆している気もする。
思いがけず、大金まで転がり込んじゃうこともあるし。
ホーキンスの「I Put a Spell on You」も無茶苦茶良いが、ウィリー役のローリーは音楽担当を兼務していて、ジム・ジャームッシュもNYのカーマイン・ストリート・ギターの常連というほど音楽好きなので、音楽にも注目してもらいたい。
いろんな感想があるだろうけど、ジム・ジャームッシュが、こうした光景を、ありのままで受け止めようとしてるようで、僕は、なんか好きな作品だ。
映画芸術の最高傑作
ニューヨークでもクリーブランドでもフロリダでも、何も起こらない、男女がいても、何もない、何かが起こりそうな期待を持ったまま何も起こらない、漂う白けた時間。良く思い出してみて、青春時代、みんなそうだったでしょう。
この映画の素晴らしさが分からない人はハリウッドアクション大ヒット超大作でもみとけ。
アメリカ映画とは思えない、ジャームッシュ監督のシンプルで斬新な演出力
新人ジム・ジャームッシュのモノクロ映画。ハンガリーから来た女とニューヨークに住む男二人の奇妙な関係を描くが、まるでヨーロッパが舞台のような錯覚をさせるアメリカ映画。つまり商業映画のアメリカはものの見事に省かれ、若者三人のシンプルなロードムービーになっている。ストリーブ・ユイレの「アメリカ」に似た演出スタイルを印象に持つ。特に後半が良く、前半が弱い。しかし、このジャームッシュ監督、テーマを絞って描き切ったと思う。凄い監督が現れたものだ。
1986年 11月25日 宇都宮松竹ミヤマス座
【ジム・ジャームッシュ監督の独特の雰囲気満載のロードムービーの秀作】
1.画はモノクロ
2.主要登場人物は3人のみ
・ウィリー(ジョン・ルーリー) 常に不愛想。
・エディ(リチャード・エドソン) ウィリーの相棒 人が好い。
・エヴァ(エスター・バリント) ウィリーのブダペストから来た従妹。不愛想。ウイリーからプレゼントされたドレスを受け取りながら、とっとと捨ててしまったり、可愛らしいのだが、”相当変な”女性。
常に、”スクリーミング・J・ホーキンス”の”アイ・プット・スペル・オン・ユー”をカセットデッキで大音量で聞いている・・。
-今では、”ストレンジャー・ザン・パラダイス”と言えば、あの濁声が響いてくる程、強烈な印象を与えられた。-
3.物語構成
1)ニューヨーク ”The New World"
ウィリーとエヴァが初めて会う。二人の噛み合わない会話が妙に面白い。”TVディナー:当時、そんなものがあるの?と思ったなあ・・”
2)クリーブランド ”One Year Later"
ウィリーとエディがエヴァに会いに行く。ニューヨークでは噛み合わなかった3人だが、エヴァは嬉しそうである。
映画館に行ったり、相変わらずダラダラ感は続く・・が、妙に面白い。
このシーンで、エヴァの叔母さん登場・・(良く喋る・・)
3)フロリダ ”Paradise"
雪深いクリーブランドに飽きたウィリーとエディはエヴァを連れてフロリダに車で出かける。
が、観ていてもリゾート感が全くないし、3人は安モーテルに泊まる。しかも、エヴァがいないことにして、2人分の料金で・・。
・誰がベッドで寝るかちょっと揉めたり
・ウィリーとエディはドッグレースに出掛け(エヴァを置いていってしまう・・)、大負けして、ウィリーとエヴァは口喧嘩。むしゃくしゃしたエヴァは海岸をブラブラしていると、”麻薬の売人に間違われ、”大金を受け取る。
ウィリーとエディが部屋に戻るとエヴァの空港に行くという書置きと大金が置いてある。慌てて空港に向かい、飛行機に乗り込むウィリー。そして飛行機は離陸していく。けれど、エヴァは何故か又モーテルに戻って来る・・
<今作の、”何が面白いのか”と問われると、なかなか難しいのであるが、全編に漂うダラダラ感と妙な会話の数々の面白さであろうか?
鑑賞当時は、ジム・ジャームッシュを観るのは”お洒落”みたいな感があったが、時折NHKで再放送される時は常に見てしまう・・。
きっと、学生時代のダラダラ感と、今作のダラダラ感と可笑しみが妙にマッチングしたんだろうと思う。>
"TVディナー"
≪JIMJARMUSCHRetrospective2021≫
スクリーミン・ジェイ・ホーキンス「IPUTASPELLONYOU」が、所々に流れエンディングでのフル。
ドレスの件は笑えるし、全てを知っているエディーのニヤつきが堪らない。
豪快で口が悪いロッテおばさんの存在感、最後の捨てゼリフも笑える。
根本的には嫌な奴だけれど、時折見せる優しさが憎めないウィリーに、負けず劣らずな態度のエヴァの冷めながらも優しい、合わなさそうな二人の掛け合いも楽しい。
ジョン・ルーリーのトッポいスタイルに渋みが漂う格好良さは、音楽も含めてジャームッシュと相思相愛。
センス溢れる全体的な雰囲気と世界観、シュールな会話などジャームッシュが素晴らしい手腕を発揮し、オシャレ感覚で真似た映画を撮るなんてケガするだけだから、ヤメときなっっ!?
完全にハマった…
ジム・ジャームッシュ監督作は「コーヒー&シガレッツ」、「パーマネント・バケーション」に続き3作目。
ストーリーはハンガリー出身でNY住みのウィリーのところへブタペストから従妹のエヴァが来る。二人は仲が悪く… というもの。
上記の2作品はそこまで自分の好みの作品ではなかった。だが、本作は完璧に自分のツボだった。ジム・ジャームッシュ監督特有のシュールな笑いが抜群に最高で且つ、モノクロで長いワンショットのカメラワークが絵画を見ているかのように錯覚させる。
たわいもない会話なのに見ていて眠くならないのは何故なのだろうか… この日常のような非日常を見ている感じが心地よいのだと思う。 各キャラが言葉に出さないだけで内に秘めているものがある感じもミステリアスでなかなか興味深い。
ハンガリー出身であることを恥じているウィリーは意図してブタペストに帰ったのか、エヴァはなぜ結局モーテルに戻ってきてしまったのか、意外と考えれば考える程深い作品。
他のジム・ジャームッシュ監督の作品が好きな人にはたまらない作品なのでは。私は鑑賞後、新たな映画の世界を垣間見れた気がして高揚感に浸っていた。
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