おいしい生活 : 映画評論・批評
2001年10月15日更新
2001年10月20日より恵比寿ガーデンシネマにてロードショー
コメディ好きも知性派もそろって満足できる「おいしい」映画
このサイバー犯罪時代に、トンネル掘って銀行強盗? そんなのありって感じだが、そのトホホさ加減からして確信犯。なぜならウッディ・アレンが描きたいのは、銀行強盗なんぞじゃない。アナクロな犯罪計画は、計算違いから転がり込んだ成金ライフを通して人生の幸福を浮かび上がらせるためのスタートラインにすぎないのだ。
なんて言うと教訓めいた印象を与える。でも、アメリカ好みの前向き人生訓を説いても、アレンは最後に粋な計らいを忘れられない。見かけはともかく、中身は洗練されているニューヨーカーなのだ。久々に駄目オヤジを演じても、ただのドタバタ喜劇のはずがない。なにしろ主人公が成金夫婦でも、彼らが出会う人々はインテリ&おハイソですから。
気楽な下町オヤジのままでいたがる夫に苦笑させ、成金から本物上流夫人へと貪欲に進化しようとする妻に失笑させても、会話のはしばしやディティールに知性と教養を溢れさせる。そう、夫婦漫才に笑わせながら、「アレンが楽しめるオレって、やっぱりイケてるよな」というスノッブ心も満たしてくれるのだ。
素直なコメディ好きも、インテリ気取りも、1本で同時に楽しませる。客層拡大を狙い続けるアレンにも、これは「おいしい」作品では?
(杉谷伸子)