スターダスト(2007) : 映画評論・批評
2007年10月16日更新
2007年10月27日より日劇3ほかにてロードショー
ニール・ゲイマンの今後を占う上で重要な一作
原作者ニール・ゲイマンを有名にしたコミック「サンドマン」は89年に刊行開始したいわばUKニューウェーブのコミック版。黒Tシャツ黒スリムジーンズの痩せた青年ドリーム(夢)、その姉のパンク娘デス(死)、その下の両性具有のデリリウム(欲望)など人の姿をした概念たちがさまざまな時代の人間世界を歩く連作で、コミック史上初の世界幻想文学大賞を受賞。ゲイマン本人も今も黒装束で、彼のコミックも小説も黒装束が似合うダーク・ファンタジーが本流だ。
が、「スターダスト」はゲイマン作品としては異色となる魔女、一角獣、王子といった古典的要素で描かれた王道ファンタジー。とはいえ、死んだ王子の亡霊達のブラックなジョークなど英国製風味は濃厚。美術はチャールズ・ベスの原作イラストの雰囲気を踏襲、魔法の市場の怪しい雑踏や、少女の姿をした流れ星の衣の鈍い光沢などが眼に楽しい。これまでのゲイマン原作TV「ネバーウェア」、原作映画「ミラーマスク」で気になった低予算映画臭さがまったくないのは大きな変化だ。
本作で製作に参加したゲイマンはさらに映画に接近し、ロバート・ゼメキスの叙事詩映画「ベオウルフ」に脚本と製作総指揮で参加、そして先述の自作コミック「デス」を遂に自らの手で監督すると発表した。ゲイマンは映画で何をしようとしているのか。それを解明するためには本作を見ておく必要がある。
(平沢薫)