戦国自衛隊1549 : 映画評論・批評
2005年6月1日更新
2005年6月11日より日劇2ほか全国東宝系にてロードショー
カルチャーギャップ的な見せ場は何処に?
79年版「戦国自衛隊」は、主演千葉真一のアクションが絶品で、アメリカからクォーターホースを運んで挑戦した「ワイルドバンチ」顔負けの“橋落ち”スタントが壮絶だった。70年代前半に人気を博したNHK少年ドラマシリーズ──「タイム・トラベラー」(原作:筒井康隆「時をかける少女」)、「夕ばえ作戦」(原作:光瀬龍)、「なぞの転校生」(原作:眉村卓)──などで目がこえた若いファンをも魅了したファンタジー活劇だった。
ところが、「戦国自衛隊1549」は半村良の原作小説の、極上のプロットが生かし切れていない。「ゴジラ×メカゴジラ」でゴジラファンの夢を打ち砕いた手塚昌明監督は、タイムスリップの科学的考証を示すのに腐心するあまり、肝心の映画的エッセンスを注入し忘れたようだ。織田・徳川軍の鉄砲隊が猛威をふるう長篠の戦いは1575年(4半世紀後)なのに、あの世の雑兵たちは戦車やヘリの機関銃にも驚くそぶりも見せず、鋼鉄の兵器をまったく恐れない!? 電灯がない時代、夜間の照明だけでも“武器”になるだろうに。そんなカルチャーギャップ的な見せ場がまったく用意されていないのだ!
人気作家・福井晴敏の翻案小説はタイムスリップした自衛隊員が「亡国のイージス」みたいに“大義”を振りかざすばかりで、馬上のアクションは皆無。ひどい改悪だ。夜のシーンのライティングも最悪で、昼と夜で大した差がない。ひとりひとり犠牲になっていく自衛隊員の死も全然悲しくない(特に、嶋大輔の死ですらも)。スローモーションの多用、CGによる流血もどこか既視感があって、心に響かないのだ。出演者の棒読みの台詞もひどいが……。
12億円とかいう製作費がもったいない。角川書店の製作システムに大きな問題があるように思えてならないのだ。
(サトウムツオ)