シービスケット : 映画評論・批評
2004年1月15日更新
2004年1月24日より日比谷スカラ座1ほか全国東宝洋画系にてロードショー
お決まりのハリウッド映画だが、泣ける
アメリカが失意のどん底にいた大恐慌時代、大衆の心を熱くした競走馬がいた。そして馬をめぐる男たちにも、不屈の魂で人生を駆け抜けた、波乱のドラマがあった──。これは「小説より奇なる」事実。原作のノンフィクションは「9・11」後のアメリカが欲しがる感動にあふれている。このストーリーを、ハリウッドが良心にかけて映画化した。
ある意味で、ハリウッドらしい映画だ。分厚い原作を整理し、美化し、観客の心にタッチする。しかし、このタッチのさじ加減が、実に絶妙。監督が物語を自分に引き寄せ、独特のセンシビリティをもって語りかけてくるからだ。監督は、決してはまり役とは言えないマグワイアの個性(「カラー・オブ・ハート」で惚れ込んだ繊細さ)をあえて用い、観客を引きつける。ブリッジス、クーパーしかり。映画が訴えるべき「感情」に対する誠実さゆえだろう。おかげで鼻白むようなハリウッド臭や過剰な「アメリカ万歳」ムードは入り込む余地がない。そして競馬シーンの美しさ、疾走感(プロ騎手、スティーブンスの名演)! めげない人間たちの美しさがするっと心に染み渡り、何度も落涙。心地よい余韻の中、しっかり前向きな気持ちにしてくれる。
(若林ゆり)