サマリアのレビュー・感想・評価
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なぜだかドラえもんのキーホルダーが印象に残ってしまった。そして鑑賞後、無性に太巻きが食べたくなったのは言うまでもない・・・
何の予備知識も持たず、単に援助交際に走ってしまった二人の少女の物語だろうと高をくくっていた。ある意味純真で、大人から見た社会常識の枠にとらわれずに二人の旅行のために売春を続けるチェヨンと、MSNメッセンジャーで客と交渉し金を管理するヨジン。警察の手入れに対してもゲーム感覚で対処する二人には、社会から取り残され、周りには夢と偽りの愛しか存在しなかったのではないでしょうか。二人の少女の物語と言えるのは、この第一部「バスミルダ」だけ。しかも、衝撃的なストーリーで締めくくられる。
第二部「サマリア」では、別の衝撃ストーリーが展開する。「バスミルダ」とははチェヨンが憧れる娼婦であり、男を幸せにして仏教に帰依させる不思議な伝説の女性であるが、それに対し「サマリアの女」が偏見や差別を受けながらもイエス・キリストを信じるようになる女性をモチーフにしているようだ(しかし、少々こじつけ気味でもある)。自分にも男を幸せにできることも発見したし、チェヨンが得た金を男に直接返すことによって罪を償っているかのような展開でした。
第三部「ソナタ」では、更に驚愕の展開が!二つの宗教的な関係を、韓国で最も売れている大衆車の名前を使い、宗教からは離れ、一般的な男(ヨジンの父親)の視点で進んでゆく。第二部で警官の父親が娘ヨジンの行為を目撃してからというもの、本人に問いただすことなく、一緒に寝た男たちに報復するという独善的な解決法を取ることになった。そして、父と娘の旅行へとストーリーは進む・・・
この映画には、全編通して興味深い小物の伏線が多数存在する。「石」が報復対象への攻撃手段、車のスタックの原因、埋葬、車の教習等々と意味を変化させ、「車」に対するヨジンの心理も微妙に変化する。「洗い流す」行為も、浴場で二人が体を洗うシーン、お札と小切手に一旦火をつけるが煤を洗い流すシーン、そしてべったりとついた血を洗い流すシーンと、比較するのも面白い。
途中まで感じたのは、「バスミルダ」での少女たちの会話がたどたどしかったことや、意外すぎるほどの行動に戸惑いを覚え、父親の豹変ぶりに唖然としたことによって、平凡な感想しか用意できなかった。しかし、公式サイトや「サマリア」の意味を調べるうちに、映画の見事な構成力に納得し、正しいと信じて行動したヨジンが父親に理解されずに置いていかれた切ないラストシーンが沸沸とよみがえってくる。本能にまかせることしかできない不器用な男たちと、社会から隔絶されてしまった純真無垢な少女が虚しく残像として記憶されてしまった・・・
本来なら、衝撃度や後味の悪さに加え、急展開する内容の映画は好きなのですが、偽物の愛に縛られている登場人物に前向きな姿勢を感じられなかったのが残念。本物っぽい愛といえば、チェヨンに対するヨジンの愛だけしかなかったように思います。その唯一の愛が第一部「バスミルダ」で終わっているのでバランスが悪いと感じました。時系列をいじって、最後にも愛を感じられればもっといい映画になったかも・・・
【2005年6月映画館にて】
どの愛をとるか
恋愛はボランティアではないと言われるが、ボランティアも愛がなければ出来ない。配偶者や恋人、家族、友人を愛するのは普通だが、稀に、汝の敵や隣人を愛せる人もいる。愛は正しいとされるが、多数の種類の愛の中で、どの愛を取るのが正しいのかは示されない。人を愛するには、その人がどの愛を取っても赦す愛が必要となる。一つの愛は他の愛を裏切る。
静寂をもって
「春夏秋冬そして春」で知られる韓国の鬼才、キム・ギドク監督が作り上げた極上の青春映画。
女子高生が遊び半分で行ってしまった援助交際から始まる、復讐と再生の物語。素朴な少女二人の悪戯から、その物語を壮絶な殺人劇場にまで昇華させる、キム監督作品のもつ奥行きの深さを存分に味わえる一品となっている。
余計な台詞回しを徹底的に排し、暴力が支配する後半の展開を映像と小さな効果音を使い沈黙の元に描ききる作風は、怒りと悲しみをマシンガンの如く台詞をぶち込んで描いていく主流な韓国映画の作り方とは一線を画す。どちらかと言えば、「間」を重んじる日本映画の雰囲気に近い。
復讐からは、何も生まれない。誰も、幸せにはなれない。その永久不滅の宿命を淡々と描きつつも、静寂の裏側で流れ出す人間の葛藤、不安、そして愛。紋切り型の人間ドラマからは見えてこない喜びが、溢れ出す。
前述の通り振り幅の大きい作品なので、多少目を覆いたくなる描写もあるかもしれないが、それでも目を見開き、飛び込んだ先には、思いがけない驚きと幸せが姿を現し、観客を魅了する。
キム・ギドク作品を味わうならば、まずは今作の観賞をお勧めする。静寂をもって耳をすまして、じっくりと楽しんで欲しい。
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