パープル・バタフライ : 映画評論・批評
2005年11月1日更新
2005年11月12日より新宿武蔵野館ほかにてロードショー
彼らを引き裂くのは占領と抵抗という単純な図式ではない
活動家の兄を暗殺され、シンシアからテロ組織の一員ディンホエとなるヒロイン。かつて彼女と愛し合い、諜報部員となって舞い戻る伊丹。彼女に想いを寄せるテロ組織のリーダー、シエ・ミン。双方から組織の刺客と間違われ、婚約者イーリンを殺され、暗闘に巻き込まれていくスードゥー。監督のロウ・イエは、明確な物語の流れや台詞ではなく、降りしきる雨、ダークなトーン、顔のアップ、長回し、時間軸の操作などが際立つスタイリッシュな映像によって、ヒロインと3人の男たちの微妙な距離と心理を描き出していく。
彼らを翻弄し、引き裂くのは、占領と抵抗という単純な図式ではない。軍の強硬派を憎む伊丹は、密かにテロ組織に荷担し、シンシアとの失われた時間を取り戻そうとする。スードゥーにとって彼女は、仇であると同時に、イーリンを奪われた苦悩を分かち合える唯一の人間でもある。そして、シエ・ミンは、闘士としてのディンホエだけを愛そうとする。
ディンホエ、シンシア、イーリンの狭間で揺れるヒロインは、あえて苦境に立つことで、自分を見極めようとする。そして、ドラマが時間を遡り、運命の分かれ目に臨む彼女を映し出すとき、その哀しみはより深いものとなっていくのだ。
(大場正明)