プラットホーム : 映画評論・批評
2001年11月15日更新
2001年12月1日よりユーロスペースにてロードショー
ジャンクー監督の深い想いと冷徹な視点
79年、毛沢東を讃える劇を上演し、移動のバスで点呼を行う劇団の姿は、革命の理想に向かって前進する集団そのものである。しかしその翌年には、初めてパーマをかけた娘が、毛沢東の肖像画の前でフラメンコを踊ってみせ、彼女の衣装の象徴的な赤には革命の理想とは異なる感情が宿る。やがて劇団はロック・バンドに変身するが、挫折を味わい、メンバーのひとりは静かに長髪を切り落とす。
改革開放政策は中国社会を劇的に変えた。この映画はファッションや音楽、生活の変化を通して激動の10余年をとらえる。しかしそのドラマは、政治と経済的な豊かさ、集団と個人の関係を見事に浮き彫りにしてしまう。
改革開放への道を開いた故、トウ小平はかつて、ゴルバチョフの過ちは経済を改革する前に政治的な自由を許したことだと語った。この言葉の裏には、人は経済的に豊かになれば、それほど政治的な自由を意識しなくなるという考えがある。ジャ・ジャンクーは、80年代に個人の自由を見出し、挫折する若者たちを深い想いを込めて描きながら、同時にこの現実を冷徹に見据えている。主人公たちは、中央の政策が生んだ新たな価値観を、巡業を通して地方に広めるただの駒でもあったのだ。
(大場正明)