「気持ち悪いけど興味深い最後の表情は見たことない。」ピアニスト にゃあごろさんの映画レビュー(感想・評価)
気持ち悪いけど興味深い最後の表情は見たことない。
おそらく父親が抜けた跡であろうベッドに並んで横になるユペール。シューベルトの才能がある教え子の話をするが、シューベルトはお前のものだ。誰にも負けちゃいけないよ。と諭される。幼い頃からこう言われてきたのだろう。
シューベルトの晩年 自らの狂気を悟り、最期の一瞬正気にしがみつく。(エンドと同じだ)それこそ完全な狂気に至る直前の、自己喪失を意味する。
[夢を見て はかない この世を渡る
朝になれば消える
それでも
欲にかられ(頑固な中流階級)
手を差し伸べても
つかめるものは…]
[吠え続けろ 番犬どもめ
眠らせずに追い立てろ
私は とうに夢を捨てた
夢見る人に用はない
私は とうに夢を捨てた
夢見る人に用はない]
[昨夜の嵐で雲は千切れ
切れた 一つひとつが
争って 空を翔ける]
ユペールの唇の演技、手指の演技、まばたきの演技、首と目線の演技
リハ 見回すユペール 教え子アンナ緊張腹痛遅刻 アンナを助けるクレメール、安定したアンナの演奏とパートナーの歌 ドアに寄りかかり聞くエリカ 涙目 ホール出て階段降りて、一度座る、グラス割って教え子のコートの右ポケットに入れる
ここの感情がわからない。(嫉妬でも救済でもなく、絶望かもしれない。なんとなくハネケは演技する上での解釈をユペールに委ねた感じがした。あるブログで破壊衝動と書かれた文を読んだ。その方はその破壊衝動がやがて自分に向くのにそう時間はかからないとも言っていてなるほど納得しました。)
ウサギのようなユペール。
[人の行く道を
故なく避けて
隠れたこの道を探し続ける
雪に埋もれた岩間の道を求める
隠れたこの道を探し続ける
雪に埋もれた岩間の道を求める
やましいことなど何もないのに
人を避けてる
人を避けてる
愚かな願いに
身を蝕まれる
身を蝕まれる…]
エリカの愚かな願い、トイレでのテスト。と手紙。支配欲求、従属欲求、、、
自分の母親と教え子アンナの母親を重ね合わせてるのかもしれない。
アンナ母「すべてを犠牲にしてきたのですよ」
エリカ「アンナがでしょ」
アンナ母「誰にも負けませんわ」
そういう意味では結果的にエリカは教え子を、救ったかもしれない。
付けてきたクレメールに手紙を読ませる。初見では手紙を読もうとするクレメールに対するエリカの表情は、何処か勝ち誇っているような気がしたが、二度目は理解を求めて期待しているような気がした。
知的な顔してクソ同然の内容だ。やはり理解されない。からかわれているのだと感じるクレメール。
本当に愛してた。そんな愛もあるんだよ。と言って去るクレメール。
誰にも理解されない孤独。母親に馬乗りに覆い被さり、接吻した。愛してると。母親にすがったが彼女にも狂ってると言われた。
ワルターに直訴、自らの狂気を悟り、最期の一瞬正気にしがみつく。完全な狂気に至る直前の、自己喪失。喪失の後は自己回復があるかもしれないが。自我を捨て、普通にやろうとした。
ワルタークレメールもユペールを理解しようと頑張ったように見えたが、結局は出来なかった。ただ努力はしていたと思う。母親の隔離、母親からの解放。遊び方を教えてよ、先生。ルールはふたりで作るんだろ。少しは協力してよ。人の心を乱しておいて。僕だけにやらせるな。愛してくれ。
秘密にしておこう。君に忠告しておく。男をもてあそぶな。愛に傷ついても死ぬことはない。じゃあ。
ワルターを殺そうとナイフを持参するも、何も無かったかのように普通に接せられ、持ってきたナイフを自らの胸に突き刺した。最期の表情。
服に血を滲ませながらホール玄関を後に。通りからスクリーンアウトしてエンド。
本当に気の毒だ。抑圧された自我がどう出るかが見ものだった。お父さんの存在。屋内の倉庫から屋外のスケート場に開けた瞬間カットが素晴らしかった。どう子育てするか考えさせる。鏡カット、テレビカット。オープニングカット。いつまでも娘を管理下に押さえつけたい母親。病院に入った父親の存在。
挿入シーン TV
手術台、馬