「心まで描くの…」真珠の耳飾りの少女 masakingさんの映画レビュー(感想・評価)
心まで描くの…
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本作のモチーフとなったフェルメールのかの名画については、それなりの予備知識はあったものの、ここまで人の心をミステリアスに暴く映画に仕上げたピーター・ウェーバー監督の腕前がもう只者でない。これが初監督作品だというからなお驚きだ。
絵画のように完璧に構築された構図といい、スカーレット・ヨハンソンの抑制の効いた、ニュアンスで表現する演技の演出といい、キリアン・マーフィーの全くストーリーに絡まない粗末な扱い方といい(笑)、破格の力量をあますところなく表したデビュー作である。
その後、『ハンニバル・ライジング』くらいしか話題となった作品がないが、やはり作中のフェルメール同様に完璧主義なのだろうか。寡作なのが気になるところである。
グリートが初めて制作途中の絵を見せられて、ひどく動揺しながら「心まで描くの」と絶句するシーンは、芸術を生きるよすがとして選択した者の業の深さを感じさせて身震いさせられた。
その絵を一目見た瞬間に、夫の真意を知って「汚らわしい」と吐き捨てる奥方の気持ちがよく分かる。自分がモデルとして選ばれようのない主題であることが一目瞭然だからだ。
真実は必ずしも人を幸せにするとは限らないというのは、こういうことなのだろう。
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