「混沌としてるのが夢というなら本作はまさにそれ」パプリカ 永賀だいす樹さんの映画レビュー(感想・評価)
混沌としてるのが夢というなら本作はまさにそれ
観終わった感想は「なんかよく分からんかったー」が第一声。
ワイヤレスのヘッドセットみたいなデバイス・DCミニを装着すると、サイコセラピストが夢にダイブ、クライエントの治療に効果を発揮するらしい。
ちょっと違うけど『インセプション』のように他人の夢に出入りできると。で、制限はあるものの、夢のオーナーに何かしらの影響を与えられる。そんな設定のようだ。
なんかわからん設定も説明なしにガンガン進むのだけど、この辺は好みが分かれるところ。
個人的には長々とした説明なんぞいらんから、映画としてスッキリさせてくれたらいいかと思っている。
そういう点で、本作はなんだか分からん部分も残しつつ、マッドハウス仕込みのビジュアルが全体を救っている。
夢の人格パプリカはコケティシュなキャラクター、しかし現実の人格はツンとしたインテリ。プラットフォームが違うだけで感情表現がこんなに変わってしまうかと思うほど、両者のパーソナリティは違って見える。
ただ、僕らだってネトゲやるときには現実の自分を隠す。人によっては性別すら変えちゃうわけだから、そんなもんかと思わんでもない。
素の人格で夢にダイブする人もいたが、これだって本名でアカウント作る人がいると考えたら理解できないこともない。
それはそうなんだが、これは対比してみようと思えば理解できることであって、映画初見ではちんぷんかんぷんになってしまいそうな気はする。
まぁ、それが筒井ワールドといってしまえばそれまでなのだけど。
もっとも筒井小説は『朝のガスパール』くらいしか読んだことがない身としては、とっても無責任なのは自覚しているが。
ではつまんなかったかといえば、決してそうじゃない。
パプリカが夢世界を縦横無尽に飛び回る姿は痛快だし、女性主人公がタフな精神を見せて問題にぶつかるさまはカッコイイと思う。
ただ釈然としないなーって思いが脳みその片側にわだかまっているだけ。
説明欲しがる観客でない永賀が感じるのだから、説明ないと地団太踏む観客には我慢ならないに違いない。
何より奇妙な感じがしたのが、ラストがラストっぽくないこと。
収拾つかないところまで進行したところで、「おい、そういうオチかよ!」というような。
決して夢オチではない。そんな単純な決着のつけ方はしていない。
けれど、どんな悪夢も目覚めてしまえば忘れてしまうように、唐突にスッキリさせられてしまうと、観客の側は全然スッキリしない。
途中までは覚えているような気がするけど、終わった瞬間を覚えていないというのは、まさに夢そのものの感想を抱かせる。狙ってやってるなら妙技だ。
では評価。
キャスティング:2(有名な声優が多すぎて別のキャラクターが想起されてしまう)
ストーリー:3(序盤から中盤まではサイコ・ミステリ、後半はカオス)
映像・演出:9(全編丁寧な描画。夢の世界ならでは不確定な部分も映像化)
ギミック:7(他人の夢にダイブできるDCミニというデバイスはとってもユニーク。ただ理解不能な説明がやたら挿入されて閉口する)
オチ:1(後半からの難解な流れを一刀両断されたら伏線回収も何もあったもんじゃない)
というわけで総合評価は50点満点中22点。
『時をかける少女』や『七瀬ふたたび』といったマイルドな作品になれた人が、もっと毒々しい筒井ワールドに浸りたいと思ったらオススメ。
難解を高尚と変換理解できる人には超オススメ。