ナイト・ウォッチ NOCHINOI DOZOR : 映画評論・批評
2006年3月28日更新
2006年4月1日よりシネマメディアージュ、TOHOシネマズ六本木ヒルズにてロードショー
遙か北方よりまれびと来たり
人は無意識のうちに、まれびとの来訪を待っている。まれびと、客人、来訪神、異人――呼び名は数々あるが、遙か彼方からふらりと来訪し、未知の供物を与えてくれる異形の神の伝説は世界各地に遍在している。ゆえに、コミックおたくという未知の世界から来訪した兄弟も、ニュージーランドから来訪した元低予算スプラッタ監督も、祭を催して歓待されたが、今回はロシアからのお目見え。「さらなる彼方より」のイメージは申し分なく、しかも、監督ティムール・ベクマンベトフは、ロシアといっても旧ソ連領中央アジア、現カザフスタン共和国出身。その容貌もアジア系で、「異人」性も充分。この北方より到来したまれびとが持ってきたのは、異国の香が漂う冷たい供物だ。
中世時代から続く「光の勢力」と「闇の勢力」の抗争が決着を付けるのではなく、協定によって互いを見張りつつ、その裏で欺きあうという設定のリアルさ。映像は「マトリックス」の呪縛を逃れてはいないが、凍てつく夜の世界のざらついた質感は独自の味。コマ落としを進化させた動作の変形が監督の得意技か。父と息子のテーマがロシア版「スター・ウォーズ」に結実するのか、今後に注目したい。
(平沢薫)