茄子 アンダルシアの夏 : 映画評論・批評
2003年7月15日更新
2003年7月26日より渋谷東急ほか全国松竹・東急系にてロードショー
自転車レースの面白さを47分のアニメに凝縮
自転車ロードレースは完全な階級社会だ。1チーム9人編成、エースの勝利のためだけに8人のアシストは存在している。風よけになり、他のチームを牽制し、勝負を仕掛け攪乱する。水や食料を運び、エースが飛び出せば追いつき、遅れればいつまでも待つ。200キロ、5時間ほどのレースを20日間、彼らはそうやって走り続ける。
この作品は、普段は脚光を浴びないそんなアシストの1人ペペに焦点を当て、故郷を捨てた男の悲哀とプロの厳しさを描いている。高坂監督は自身も有名なアマチュア・レーサーだけに、自転車レースの面白さをアニメーションという枠の中で、47分という時間に凝縮させて堪能させてくれる(CGの空撮やギアチェンジの描写、監督と選手の無線のやりとりのリアルさ)。
原作は黒田硫黄の同名短編コミック。映画はセリフを含めほぼ完璧にそれを踏襲しながらも、ジブリ・テイストの猫キャラを配すぬかりの無さは買えるが、随所に登場するアンダルシア民謡調オリジナル劇中歌はやりすぎか。また、1人の女性を巡るペペと兄のドラマは、レース一辺倒になりがちなストーリーを効果的に和らげている。まさにロード・シーズン真っ只中の今、マニアに独占させては勿体ない快作だ。
(編集部)