劇場公開日 1952年9月16日

「チェック・ダブルチェック」地獄の英雄 因果さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0チェック・ダブルチェック

2023年7月26日
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原田眞人『クライマーズ・ハイ』でかなりダイレクトに言及されていたので鑑賞。カーク・ダグラス演じる傲慢な新聞記者テータムとそれに群がる人々が洞窟に生き埋めにされた男レオの命を自己顕示欲によって消費し尽くすまでの過程が克明かつ執拗に描かれる。

テータムもさることながら、彼がばら撒くセンセーショナリズムに飛びつく群衆のリアルなグロさが印象的だ。インタビュアーに向かって「私が一番最初にここへ来た」と答える保険屋の家族、レオのために軽やかなポップソングを歌い上げるギター弾き、回る観覧車、男の死を知るや否や座椅子を降りて白々しく膝をつく貴婦人。

はじめこそ誰よりもレオをエンタメ消費していたテータムだったが、あまりにも冷酷で自己中心的なレオの妻や保安官を目の当たりにしているうちに良心の呵責に耐えられなくなってくる。終盤の彼の自傷行為のような一連の行動はひたすらに痛々しい。加えて生来の性格の悪さゆえ、その痛々しさが偽らざるヒューマニズムであると理解してくれる者は既にどこにもいない。

彼は田舎の地方新聞社に戻ると、編集長に向かって「時給1000ドルの新聞記者を好きに使え」と嘯き、その場で絶命する。一方でレオの妻や悪徳保安官や大手新聞の記者たち、そしてそれらの邪悪に気がつくことなく目の前の情報を消費し続ける無数の大衆。そうしたものが今なおアメリカじゅうで跳梁跋扈しているという絶望。『深夜の告白』や『サンセット大通り』にも匹敵する暗澹たるビリー・ワイルダー映画だった。

因果