「2度目鑑賞。冷静になってしもうた。」息子の部屋 エイブルさんの映画レビュー(感想・評価)
2度目鑑賞。冷静になってしもうた。
☆良かったところ☆
・いびつな展開
映画の基本をやっているようで、ラストへ向けてのグロテスクなまでの非ドラマ感は面白い。とらえどころのない恋人が現れ、感動の準備が整ったところを肩透かしして、それどころか虚しさの穴がぽっかり胸に開く。
お涙頂戴の前提ストーリーから、解決ポイントへの道筋の整っていない具合、シーン同士がガタピシいっている感じ、ハンドリングできていない進行が、実にリアルで本作の宝石となっている。
・精神科医という設定
この設定自体、あまりによくでき過ぎている気もするが、分析医が冷静を保てるか否かのギリギリのラインを見せてくれるのは、スリリングでもあり、力む、他にないリアリティがあり、面白かった。
ただ、もっと耐えるのも観たかった。(私事にうろたえ、分析医として、もはやアウトなのは、物語のわかりやすさ追求し過ぎていて、面白さが欠けたような気がする)
・音楽
常に同じ曲が流れるのはよかった。
家族という一見幸せそうに見える集団に通底している哀しさを、空気に刻んでいるようだ。
・シーン開けの演出技法
北野武的手法が効果的になされている。
シーンののっけから、北野監督曰く「因数分解」の画を使い、行動の結果が示されている。それが、映画にリズム、小説でいう文体のようなものを生んでいる。
★悪かったところ★
・息子がすでに死ぬとわかって観る陳腐さ
息子の死が予告編で明かされていて、それをコミで観なければならない。よって、悲劇としてあまりに安易な定型へとはまりやすいし、じっさい、遺された者らの多くのリアクションは、その型にはまってしまっている。お涙頂戴に、どうしても流されてしまう。
・精神科医という設定
冷静で平和を好み寛容で理性的人物としての主人公の設定、その性質を、さらに拡張させているのが、この職業設定。うーん。少し設定が説明的過ぎやしないか?
前述したが、この設定は、父の理性崩壊描写を生かすためになされているようだが、理性の崩壊をやはり最後の最後まで隠し通したほうが、より奥ゆかしい感動があったように思う。伝家の宝刀を、ちょっと抜きすぎ。
よって、古めかしい悲劇でも観ているような、たとえば、歌舞伎で子が殺された父のような、そんな芸能臭さがぷんと漂ってしまったか。