「迫真の演技の力作」モンスター(2003) Cape Godさんの映画レビュー(感想・評価)
迫真の演技の力作
総合:90点
ストーリー: 85
キャスト: 100
演出: 85
ビジュアル: 70
音楽: 70
美人女優が今まで築いてきた自分の評判を失墜させかねないこれほどの役をやるのは、並大抵の覚悟ではないだろう。実際に大きな肉体改造をして作品に挑んだアイリーン役のシャーリーズ・セロンはまるで別人になっている。見た目だけではない。言葉づかいも振る舞いもまるで本物の迫力。幼いころから家族も含めた周囲のみんなに騙され裏切られ続け、誰も信じることが出来ず頼るものがないままに地の底で孤独に生き抜いてきた女がここにいた。免許もないのに動物好きだから獣医になれると思いつき、秘書の面接に履歴書も持たずに出かけるような彼女をみて、いかに悲惨な生活をしていたかがわかり哀れみを誘う。ウィキペディアによると、作中に語られる彼女の経歴は実際の経歴とは違うようだが、それにしても悲惨さという意味では似たり寄ったりのものだろう。
そんな女がただ一つ信じらる愛情が出てきたとき、本当に彼女はそのために短絡的になんでもするだろうということがよくわかる。残念ながら彼女は自分の大切なものを守る力も正しい道を知る術もなかった。その生き様が手に取るようにわかるし、それは女優の演技力によるところが非常に大きい。
セロンの圧倒的演技に隠れがちだが、セルビーを演じたクリスティーナ・リッチも素晴らしい。同性愛者ということで虐められ故郷に居場所がないけれど、何事にも控えめで特に能力もない彼女が自分の幸せを求めるときに唯一出来るのは、誰かに頼ること。保護者なしでは生きることが出来ない彼女は、自分でしたいことは自分でする力もなく、流されて生きる弱さをさらけ出す。彼女は彼女なりの小さな幸せを望んだだけ。だからまだあどけない彼女を手にして小さな幸せを知れば、彼女を守りたくなりもう手放したくなくなるのだろう。犯罪者の傍らにいる役という意味で共通点もある「バッファロー'66」に出ていた時と随分と体型も雰囲気も違っていて最初は誰なのかわからなかったが、彼女の演技が作品の両輪として機能している。
この二人の演技がとにかく作品を魅力的にしているのだが、同時にこれは社会の暗部を見せた社会派作品である。格差が激しく貧困層が多いアメリカは誰も頼る人がいない似たような境遇の人は多いだろうし、格差の広がる日本の将来像を示しているようにも感じる。「フローズン・リバー」や「ツォツィ」と並んで、貧困に苦しみ社会から見捨てられ犯罪に手を染める人々の生活を見事に抉り出している。
実際の事件を基にした映画ということだが、ウィキペディアによるとアイリーンはずっと若いころからたくさんの犯罪を重ねている人物のようで、彼女が社会の歪が生んだ被害者ともとれる映画の内容とは異なる部分もある。ディスカバリー・チャンネルでも同じ邦題で番組が制作されていて、やはり彼女の素行は悪かったがその反面悲惨な家庭環境があって、家出をして一人生活するために荒れた生活になったのはやはり事実のようだ。それでも彼女は恋人に愛情を示し、彼女のために自己犠牲となる行動をしていて、生まれついての怪物ともとれない。真実の彼女がいったいどうだったのかはわからない。しかしたとえ実際の人物像がどうであったとしても、映画としてはとても良く出来ている。