ミリオンダラー・ベイビー : 映画評論・批評
2005年5月13日更新
2005年5月28日より丸の内ピカデリー1ほかにてロードショー
その悲劇を照らし続ける光がある
あまりに絶望的な結末に、愕然とする。おそらくアカデミー賞史上最も絶望的な映画ではないか。確かに、絶望の果ての小さな光がそこにないわけではない。いや、絶望であると同時にあらゆる人生を等しく照らし出す光がそこにあると言った方がいいかもしれない。絶望と共にしかあり得ない、人生の光。
一体、すでに30歳を過ぎて孤独に耐えながらプロのボクサーを目指す女性が、この世に何人いるだろうか。いずれは彼女の夢につきあうことになる老トレーナーも、おそらく同じ思いを抱いていただろう。だがそんな女性もいる。この地球のどこかにいるのだ。この映画を見るとそう思う。いや、それは私自身のことかもしれないとも思う。性別・年齢関係なく、誰もがその絶望と希望の境目に立っている。それを知らないのは運がいいだけなのだ。
だからほんのちょっとのことで、バランスは崩れる。誰もそれを修正することは出来ない。それは徹底した悲劇となるが、その悲劇を照らし続ける光がある。それは、女性プロボクサーや老トレーナーの希望も絶望もすべてを等しく照らす。つまり、世界のすべてを。だが悲劇がハッピーエンドに変わることはない。しかしそれでも我々は生きていくことが出来る。光に照らされた世界のすべてを、その胸に感じながら。それが映画を見ることの意味であると、この映画は語っている。
(樋口泰人)