劇場公開日 2004年3月27日

「実際の事件に引き摺られ過ぎ、映画としての普遍的価値が…」殺人の追憶 KENZO一級建築士事務所さんの映画レビュー(感想・評価)

3.0実際の事件に引き摺られ過ぎ、映画としての普遍的価値が…

2021年7月31日
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鑑賞方法:CS/BS/ケーブル

昨年鑑賞済みだったが、
BS放映を機に再鑑賞。

全体的には良く練られたイメージの作品。
ただ、ポン・ジュノ監督作品としては
「グエムル-漢江の怪物-」と「母なる証明」
は好きだが、
「パラサイト 半地下の家族」の
アカデミー作品賞受賞は納得出来なく、
この作品も同じ印象を受けた。

犯人を作り上げることに
奔走する地元刑事を
コミカルに描く前半シーンは、
つかこうへいの「熱海殺人事件」をも彷彿
させる韓国警察の自虐的な風刺が効いて
逆に妙にリアリティを醸し出す一方、
自慰行為を目撃者された容疑者を
追いかける場面からの
アクション的で過激なシーンが続く後半は、
現実味が薄れ緩慢にも見え、
キネマ旬報第2位作品との評価は
これも納得外だ。

この映画、ラストシーンの
「よくある顔…普通の顔」
と子供に言わせたのは、解説にあるような、
立件出来なかった曲をリクエストしたの男
の再犯との匂わしでは無く、
多分に犯罪恐怖は
日常的に潜んでいると解釈をした方が
この作品の深みが増すのだが、
解説通りだとしたら
この作品の普遍性も消えて
残念な製作意図だ。

だから、映画で描かれた猟奇殺人の犯人は
このリクエスト男としか思えない描き方だ。
多分にたまたま別の精液が付着していた等の
結果、正しいDNA鑑定結果が出されなかった
だけとしか想像出来ない。

ラストシーンを
日常的な犯罪恐怖性への警鐘
と解釈したかったが、残念ながら
やはりそう思えない展開に違和感を感じた
のは当然だったかも知れない。

ある意味、実際の事件に引き摺られ過ぎ、
映画としての普遍的価値を失ってしまった
作品と言えないだろうか。

更に、最後のトンネル内を手錠をしたまま
立ち去るリクエスト男の扱い、
また、主役でも良いようなソウルから来た
応援刑事や
片足切断となった同僚の
作品内での終わらせ方も
いかにも尻切れトンボのようにも感じる。

ポン・ジュノ監督は、「パラサイト…」でも
同じ印象を持ったが、
前半は良く練られた作風だが、
後半になると作品の切れ味が低下してくる
イメージが私には常にある。

KENZO一級建築士事務所