劇場公開日 2004年3月27日

殺人の追憶 : 映画評論・批評

2004年3月15日更新

2004年3月27日より渋谷シネ・アミューズほかにてロードショー

「見えない犯人」はあなたであり私である

昨年ようやく公開された「ほえる犬は噛まない」を00年の映画祭で観て以来、筆者の中では「次の動きが気になる監督ランキング世界一」となったポン・ジュノ。韓国社会のローカル性に執着したミクロな視点を、汎世界的でマクロな人間描写・歴史認識へと繋げる稀有な才能は、エンタテインメント度を増した本作でさらにパワーアップしている。

86年、ソウル近郊のある農村で起こった未解決連続殺人事件。これを忠実に映画化した本作は一応サイコ・ミステリというジャンルに区別できるだろうが、コアな猟奇趣味はきわめて稀薄。あくまで主眼は事件を捜査する刑事たちの熱情と挫折を描くことにある。しかし、リアリスティックな警察ドラマと言い切るのもまた躊躇させるのだ。

時代はチョン・ドゥファンによる軍事政権下。灯火管制のサイレンの中で防空演習に駆られる民衆の姿や、反政府デモ鎮圧のため警察官が出払っていて殺人の兆候をキャッチしながら防げない、といったキナ臭い描写が断片的に置かれているのが象徴的だ。つまり閉塞と抑圧のなかで、誰も気づかぬうちに人間性が失われていく「見えない恐怖」をこそ、ポン・ジュノは描こうとしているのである。

この映画では史実どおり犯人が捕まらないが、彼はこの事実が過去そして現在において何を意味するのか、ラストの衝撃的なひとことで観客に問いかえす。たしかに軍事政権は崩壊したが、それで社会は抑圧から解放されたのか? 不安に満ちた空気の中で蠢く「見えない犯人」は、あいつであり、あなたであり、またわたしであったとして何の不思議もないのだ。

(ミルクマン斉藤)

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