「ノーラン作で好きな映画」メメント parsifal3745さんの映画レビュー(感想・評価)
ノーラン作で好きな映画
クリストファー・ノーラン監督の作品は、時間を逆行させる映画が多いが、この作品は、その中でも理解しやすい方で、効果も成功している映画だ。主人公は、10分前のことを忘れてしまうという短期記憶力が著しく損傷している男。暴漢2人組に自宅を襲われ、妻は殺され、一人は射殺した
が、残りの一人に殴られたと記憶していて、脳の高次機能障害に陥っている。
一連の物語の最後から映画は始まり、10分位の物語を少しずつ過去に遡りながら真相が明らかになっていく。記憶が残らないっていのは、痴呆症と同じ心理状態に陥るはずだが、このレナードは、記憶を補うために、メモや入れ墨等を残して、それに基づいて行動している。
しかし、記憶がないということは、悲しいもので相手に騙されてもわからないし、相手が自分にしてくれた配慮も覚えていない。
主人公の視点になって、相手が何者かわからないが、状況やメモから即時にわかったふりをして対応するのは、とても不安になるし、ふわふわした感じになる。緊張感と不安感を演出するという点で、この手法は素晴らしい効果を上げている。後期の作品は、あまりにも凝り過ぎていてあり得ないので、「メメント」は、適度な効果で好きな映画である。
最後にわかる真実は、なかなか衝撃的。自分の妻は、暴漢に殺されたのではなかった。サミーとその妻の話は、レナードとその妻の話であったということ。事実を受け入れられず、都合がよい他の人の物語にして、覚えていたのだった。事件後、妻は、夫が記憶障害になり心労が重なっていたところに、絶望した糖尿病の妻をインシュリンを打って死なせてしまったのだった。また、麻薬取引きに関わって、お金を着服しようとしたテディの計画に載せられて、第二のジェームズ(ジム)=ジョン・Gを殺してしまうのだが、それを受け入れられず、自らの過去のメモに従ってテディをジョン・G(第三)と思って殺してしまう。1年前にジョン・Gを殺していたのだが、それを受け入れていないのであった。麻薬の売人ナタリーもなかなかの悪女で、ジムが持ち逃げを疑われたお金でドッドに脅された際、レナードが記憶障害であることを利用して、レナードに殴られたのを、ドッドに殴られたと嘘をつき、ドッドを襲撃させて保身を図っていた。更には、車の持ち主を探してあげると言い、テディの車を、知り合いのジムが死んだと知りながら、持ち主をジョン・Gと告げている。
実際、記憶が10分しか持たなかったら、不安すぎて精神がおかしくなってしまっているだろうと思う。主人公のように、確信をもって生きようとしたら、周囲と衝突してトラブルばっかりになってしまうだろう。
自分も高齢になってきて、以前程記憶力が定かでないと、自信をもって確信するということが苦手になってきている。