「今の自分は10分前の自分と同じ人間なのか」メメント 杉本穂高さんの映画レビュー(感想・評価)
今の自分は10分前の自分と同じ人間なのか
クリストファー・ノーランの時間解体の構成術が、非常に強く効いている作品。10分しか記憶が持たない男のある復讐事件の顛末を時間軸を巻き戻すように見せていくことで、スリリングさを演出している。記憶が持たないために、主人公は過去が定かではない。過去は僕らにとっては固定的なものという認識だが、その前提がこの男の場合、ない。
未来に何をするかも、過去に何をしたのかも、どちらも不定形であるというのは、こんなに不安なものなのか、と見る人に納得させる。人間の同一性は何を持って保たれているのかという問いを突き付けられたような気分だった。10分前の主人公と10分後の主人公、姿かたちは一緒でも、同一人物なのかどうかわからない、というぐらいに行動が変わっていることがある。
この人格すらバラバラに感じさせる雰囲気作りに、時間を解体する構成が非常に上手く機能している。個人的には、これはノーラン作品でベスト3に入るくらい好きだな、と改めて思った。観終わった後にも、自分の中に不安が残るのだ。
今の自分と何分か前の自分って本当に同じなのか、みたいな。
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