劇場公開日 2001年11月3日

「記憶は全て自分の都合のいいように書き変えられていく。」メメント 七星 亜李さんの映画レビュー(感想・評価)

4.0記憶は全て自分の都合のいいように書き変えられていく。

2021年1月2日
iPhoneアプリから投稿
鑑賞方法:DVD/BD

TENETを観た後にこの作品の存在を知り観たが、ノーランの真髄がここにあることがわかった。
ストーリーは、ノーランの他の映画と同様に1回観ただけではわからないくらい難解。
でも、引き込まれていくところが、彼の作品の最大の魅力だと思う。
10分しか持たない記憶の中で生きていくことを疑似体験する感覚は、TENETで感じたような時間への混乱を生じ、
自分が今見ているものは現実なのか過去なのか夢なのか、足元がグラグラするような感覚に襲われる。

まったく別の話になるのかもしれないが、「サピエンス全史」によると、文字ができる前までは、人間は全てを記憶していたとのこと。
どの草は食べて良く、何が毒なのか、動物を仕留める方法や道具の作り方、誰が仲間で、敵は誰なのか、季節の移り変わりや天気の変化や歩いていく道や
全てを覚えている、または、口伝えで伝えていくことが生きていくためには必要だったとのこと。
だから、脳の大きさもホモサピエンスより、最終的に文字を持たずに絶滅したネアンデルタール人の方が大きかったということも納得できる。

文字ができたことにより、また、文字を紙で残し、伝えていくことができるようになってから、
人間は、全てを記憶しなくても、記録をして残しておくことで、過去を知ることができるようになった。
しかし、それは、残っているものが正しいものという錯覚を引き起こしているのかもしれない。

現代の私たちの脳は、色々なデバイスを使いながら、どんどん楽をし、自分にとって都合のいいように記録を残している。
積み重なる記憶と記録によって、自分を何に翻弄されているのかを考えさせられた映画だった。

七星 亜李