「I miss you が《寂しい》なのだと 字幕で初めて知った日」リトル・ダンサー きりんさんの映画レビュー(感想・評価)
I miss you が《寂しい》なのだと 字幕で初めて知った日
「スト破り」してでも息子の夢を応援してやろうと思った強面で不器用な父親。
こんな愛があるだろうか・・
そして弟ビリーの出発を父子で見送るときの、バス停でのお兄さんの小さな叫び
I miss you . . .
父と兄はロンドンを目指す。
最後のステージで、苦労してきたこれまでのすべてが報われるのだ。
白髪になった年老いた父親と、炭鉱場で、そして街なかで、父親と共に裏切り者と呼ばれながら、弟ビリーの夢と偏屈な父親を支え続けたお兄さんと。
scab 《スト破り野郎、病原菌、疥癬》。
その苦渋と、割り切れなさに、監督は光を当ててくれた。
ロンドンに上京し、みんなで息子の晴れ舞台を観る。
幕が開き、
目を大きく見開いて、立派に成長した雄白鳥を驚きの目で見るシーン。
アダム・クーパーの、どこまでも飛ぶ跳躍!
(いつも下手くそなのにピョンピョン跳ね回っていた) まぎれもなくあれは我が子ビリーなのだ。
一瞬しか見せないあのラストは、稀代の名シーンだ。
もし暗い映画館で本作を鑑賞していたならば、スクリーンの明かりに照らされて我々観客の横顔もあれと同じになっていたに違いない。
身を乗り出して
驚いて
目と口を開けて!
そこにある全てに飲みこまれて。
頬を涙で濡らして・・
幸せの余韻で映画は終る。
そういえば
会津の炭鉱町が舞台の「フラガール」でも、豊川悦司が娘のフラダンス教室通いのために頑張ったんだよなぁ。
願わくば・・
願わくば、
世の父親たちの、踏ん張りと、堪(こら)えと、流した涙の、
すべて報われんことを。
・・・・・・・・・・・・・
きりんさんへ、
この映画は映画演出の模範的なショットの連続で一つも無駄なものが無く、語ろうと思えば幾つも挙げられます。淀川さんならきっと指摘するであろう関連ショットを一つ挙げると、ビリーがデビーの誘いに迷っていた後の女の子に混じってバーを使った列にならんでいるのを移動ショットで見せるところです。女の子の白いトウシューズからビリーの青いボクシングシューズが映り、そこへ先生がトウシューズを投げる。バレエに興味があるビリーの心理変化を簡潔明瞭に演出していますね。バレエを反対されての怒りのダンスでは、細かいタップのステップを刻む黒い靴のアップでビリーの抑えきれない感情を表します。そして、ロイヤル・バレエ学校の試験場面の足のアップ。白いソックスに黒のトウシューズがリズムを取り、試験官たちが訝し気に覗くところ。ここにはビリーが何故踊るのか、未熟でも感情が整ってから踊り始めるビリーの天性をも感じさせて、初見の時私はいたく感動してしまいました。小説でも舞台でも表現できない、映画だからこそ眼に見せて感じさせる演出のカメラワークです。ダンスの基本がステップにあるのを、この映画は丁寧に見せています。ホップ、ステップ、そしてラストの大ジャンプと。
きりんさん、コメントありがとうございます。(長文失礼致します)
待望の映画館でご覧になられたのですね。私も10月26日の東京公演最終日のミュージカル「ビリー・エリオット」観劇のため上京して、終演後有楽町に直行し23年振りに「リトル・ダンサー」を映画館で観ました。DVDは何回も観ています。ミュージカルは、ビリー役始め子供たちの熱演に拍手を送るために、日本初演から今回の公演まで楽しく観ています。スティーブン・ダルドリーの映画演出も舞台演出も大好きです。暖炉の前で涙を流す父親は、スト中の生活苦で母親のピアノを壊し暖を取るクリスマスの寂しさと侘しさに不甲斐なさを感じて落ち込んでしまいますが、このシーンがあるからこそ、ビリーが何も言わず踊るのを観て改心し、親として決意する展開になっています。素晴らしい脚本です。きりんさんのご指摘のように、ダルドリー監督の視点は、常に登場人物に優しく温かいですね。
きりんさんがバレエ経験をお持ちなのを今回知って、お話ししたいことがあります。私がこの映画を褒め称えたい理由の一つに、もし淀川長治さんが観ていたら、絶対に絶賛したであろうと思えるからです。淀川さんは、映画だけでなく、歌舞伎や舞台、ミュージカル、そしてバレエなどの造詣が深く、ファンにもより多くの視野と知識を得るように勧めていました。高校生の時、テレビで森下洋子さんのバレエに感動したことがあります。アップで観た表情の演技が素晴らしかったからです。学生時代には同級生の女性にバレエ公演のチケット購入を頼まれ一度だけ生のバレエを鑑賞したことがあります。古典からコンテンポラリーの発表会の催しのようなものでした。映画では、プロコフィエフの音楽が好きなので、フォンテインとヌレエフの「ロミオとジュリエット」を観ています。それとハーバート・ロスの「ニジンスキー」では、カルラ・フラッチが印象に残っています。昔の作品では、やはり「赤い靴」「巴里のアメリカ人」「裸足のイサドラ」「ウエスト・サイド物語」が好きですね。退職して10キロも太った私が言うのも恥ずかしいですが、ダンサーの克己精神には観るたびに感心してしまいます。
Gustavさん
いま、映画館から戻ったところです。
他のレビューアーさんへのご説明
〉ピアノを火葬
することが男やもめには必要だった。
共感です。
暖炉の前で瞬間泣く父親を一瞬だけ、監督はほんの一瞬だけ映像に映しました。あの不器用な父親に恥をかかせず、痛みに寄り添い、でもすぐに目をそらしてやる温かなカメラワークに、震えるほど感動しました。
また観たいと思える名作です。
念願叶って
映画館・塩尻市の東座で、スクリーンでの初鑑賞。
やはりDVDとは違うし、僕もあれから人生の辛酸を味わってきた。
頑張って子育てしたし、病人も頑張って看取ったし、リストラの恐怖もかいくぐってきた。
ビリーも頑張ったが、大人たちの必死さに涙がおさえられなくて ちょっと声が出てしまって泣いてしまった。
東座の合木さんありがとう。本日の彼女は素敵な秋色のパンツでした。
真っ赤な目の僕を、微笑んで見送ってくれました。
☺️🍁✨
コメントありがとうございます。
スクリーン鑑賞楽しみですね。
幸せの余韻…倍増でしょう😌
特徴的な色使いの中でしたが、兄の心情がよくあらわれているカットが印象的でした。弟とは違う、同じ若者としての気持ちが複雑に刺さりました。
最後にきりんさんが書かれた言葉も沁みるものでした。
ご無沙汰してます。
もう秋も深まって来ましたね。
「パリ・オペラ座の白鳥の湖」のIMAX上映ですか?
素人考えですが、近くの都市のTOHOシネマズで、
やりそうですね。
でも新幹線で東京の方が交通の便が良いのかしら?
田舎者なので土地勘がありません。
どうか楽しんで下さいね。
きりんさん
コメントありがとうございます。
はい、アダム・クーパーのソロのバレエ(ひとりで15分ほど、
ジーンズ姿で踊りました。)
熊川哲也のリサイタルの賛助出演だったので、熊川哲也より
目立たない配慮があったかも知れません。
そんなに跳ばないでリラックスした振り付けでした(新作だと思います)
体格が良くてバレエダンサーというより線が太い男性に見えました。
もう札幌にはKカンパニーもオペラも来る事は有りません(不景気で)
きりんさんは「愛と哀しみのボレロ」を生でご覧になったのですか?
もう羨ましです。いいなあ!!
私も5歳位の時にバレエを習ってたのですよ。
ところが母が、この子は見込みがない・・・と、早々に見切りをつけて
辞めさせられました。
一目で上手い下手が分かりますものね。
「リトル・ダンサー」、
「愛と哀しみのボレロ」、
そして
「マシュー・ボーンの白鳥の湖」。
小学校3年生の僕に
「踊ってみたいか?」と訊いてくれたのは母だった。
近所の大学の講堂に「谷桃子バレエ団」が公演に来て、僕を連れて行ってくれた母。
「チケットはありません、でもどうしてもこの子にバレエを観せたいの」と、あろうことかガードマンに頼み込んで、裏口から客席に入れてもらった母って どんだけー(笑)
夜道を歩いて帰りながら、いま見てきた世界への興奮に夢見心地に踊る僕に、母はバレエを習わせてくれたのです。
50年少し前のことです。
「アッ!男だ!」と、初めて男子を見て叫ぶ女の子たちに迎えられて、僕もバレエ教室でリトル・ダンサーになったのでした。
やめたのは3年ほど経ってから。僕はその発言を覚えていないのですが、「男の子はトウシューズを履かせてもらえないらしい」という失意で教室をやめたらしい。
続けていれば熊川哲也か首藤康之か。
「リトル・ダンサー」では、同じマシュー・ボーンの振付けでアダム・クーパーがラストシーンを衝撃的に飾っている。
書いていてふと思ったのだが、僕のバレエを父はどう思っていたのだろう、今度きいてみよう。