ライフ・イズ・ミラクル : 映画評論・批評
2005年7月19日更新
2005年7月16日よりシネスイッチ銀座ほかにてロードショー
境界のない自然は動物に結びつく
ユーゴスラビア崩壊を背景にしたこのクストリッツアの新作が、「アンダーグラウンド」に比べて楽観的な印象を与えるのは、セルビアとの国境に近いボスニアの山間の村を舞台に、政治や野心や愛国心とは無縁の平凡な男を主人公にした物語を描いているからだろう。そんな男の物語を際立たせていくのは、クストリッツア作品には欠かせない乗り物や動物たちだ。
セルビア人のルカは、鉄道を引くために妻子と村にやって来た。彼が熱中する鉄道模型の世界は、やがて目の前の現実になるはずだったが、戦争がそれを奪う。線路を行き交うのは、戦車を運ぶ車両や武器を売る闇商人だ。それはルカが作ろうとした鉄道ではないが、彼自身も鉄道模型の世界に本当に何を求めていたのか、わかっていたわけではないだろう。
それが明確になるのは、彼がムスリム人の看護士サバーハと出会い、恋に落ちてからだ。彼らのベッドは乗り物となって空に舞う。そして、「アンダーグラウンド」の地下育ちの新郎新婦のように、境界のない自然に目覚める。その自然は動物とも結びつく。この映画で、戦争が起こることを予告するのはクマであり、ルカの守護天使となるのは、失恋の涙を流し、線路に立ちはだかるロバなのである。
(大場正明)