ジェヴォーダンの獣 : 映画評論・批評
2002年1月15日更新
2002年2月2日よりニュー東宝シネマほか全国東宝洋画系にてロードショー
黒澤、レオーネ、ウーへの愛いっぱいのフランス映画登場
獣はいるのか、いないのか。いるとしたら、どのような姿をしているのか。姿を現さない獣。けれど確実に犠牲者は増え続ける。そこには何かがいる。1764年にフランスのジェヴォーダンで実際に起きた恐るべき大量殺戮事件。あまりの謎の多さに事件は伝説となり、2002年を迎えても謎は解けていない。
そのフランス最大の謎に挑むのはクリストフ・ガンズ監督。彼は黒澤の侍映画を愛し、レオーネを愛し、この2人を尊敬するジョン・ウーを敬愛し、そしてサム・ライミの「死霊のはらわた」を愛する男。かくして映画の前半は黒澤風が吹き、レオーネ・タッチにまみれ、ウーの匂いが漂い、ライミ的ショット繋ぎが随所に見られる。その華麗なるツギハギ度が、姿を現さず、噂話が膨れ上がって人々を恐怖に陥れる獣の姿とダブっていく。本物はどこだ? と。ガンズ、お前が本当に見せたいモノは何なのだ? と。
そして後半、彼は映画的勝負に出る。愛すべき匂いを振り払い、自分の世界に足を踏み入れていく。物語の禁じ手を堂々と使ってみせる。いまだかつて誰も観たことがないほどフランス人の肉体を早く動かし、愛する映画を喰らいながら獣の姿を描いていく。ガンズの野獣魂がここにある。
(大林千茱萸)