ランド・オブ・プレンティ : 映画評論・批評
2005年10月25日更新
2005年10月22日よりシネカノン有楽町ほかにてロードショー
混迷するアメリカへのベンダースの祈り
ランド・オブ・プレンティ=豊かな地。これは、ここ8~9年、豊かな地=アメリカに住んでいたベンダースが、来春日本公開の大作「アメリカ、家族のいる風景」の撮休中にビデオカメラで16日間で撮りあげた新作。監督自身「奇跡のような映画」と愛着を示し、9・11とその後の混乱するアメリカへの思いを込めている。
イスラエルから“アメリカの伯父さん”に会うために10年ぶりに祖国に戻った少女、ラナ。伯父さんはベトナム戦争の後遺症を抱え、さらに今、たった1人でテロからアメリカを守っている気になっている。ある事件をきっかけに、2人はロサンゼルスからアメリカ横断の旅に出る……。
空疎なまでに広大なアメリカの原風景。トラウマを抱える虚ろな男。誰しも「パリ、テキサス」を思い起こすが、旅路に流れるのはライ・クーダーのスライドギターではなく、レナード・コーエンのタイトル曲だ。ベンダースがこの映画への使用を直接コーエンに頼んだこの曲は「ぼくは声をあげて祈る──この豊かな地の光がいつの日か真実を照らし出すように」と歌う。それは今、混乱や貧富の差やパラノイアにあえぐアメリカに対するベンダースの祈りでもあるのだろう。
(田畑裕美)