「主人公は異星人なのか精神異常者なのか最後までハラハラさせて欲しかった」光の旅人 K-PAX 徒然草枕さんの映画レビュー(感想・評価)
主人公は異星人なのか精神異常者なのか最後までハラハラさせて欲しかった
1)ストーリーの枠組み
自分は異星人だと名乗る中年男が精神病院に入院させられ、大変説得力をもって故郷の星K‐PAXの生活について詳細に説明する。医師はもちろん病気だと診断するが、多くの患者たちは彼の話を信じ、自分たちも男の星に連れて行ってくれと頼み込む。やがて病院の患者たちは彼を中心として回り始める。
ところが医師が彼の話を手掛かりに身元を探してみると、実は彼は田舎町の農家の主で、妻子を突然殺害されたためにその犯人を殺してしまった男らしいとわかってくる。現に高校の卒業写真は彼の面影を宿しているようでもある。
男は心に大きなトラウマを抱えた、天才的にウソの達者な精神病者に過ぎないと医師は確信するのだが…というのがストーリーの大きな枠組みである。
2)サスペンス映画の可能性もあったのに…
これがサスペンス映画なら、肝心なのは主人公の男プロートが人間か異星人か最後まで明確にしないまま、観客に解釈の余地を大きく残すことである。
しかし本作の場合、医師は知人の伝手を辿って天文学の権威たちの前に彼を連れて行き、地球人の誰も知らないK-PAXの軌道を説明させ、学者一同をひれ伏せさせてしまう。たとえサヴァン症候群の特殊能力者だったとしても、データさえ公表されていない星系の軌道を一瞬で見通せるはずはないから、これにより主人公は異星人だと確定されたに等しい。
この天文学の一件で、「ボクはただのK-PAXの旅人で科学者ではないから、軌道などは知らないね」と片付けておけば、観客はその後も「こいつはイカサマ師なのか、本当の宇宙人なのか」と迷わせられ続けて、ラストシーンは緊張感で一杯にすることもできたはずなのに…残念ながらそうはならなかったのであるw
後は医師がいくらプロートらしき人物の身元を追いかけても、観客はさほど興味を惹かれない。観客はどうせプロートは異星人が地球人に憑依しただけで、K-PAXに帰還するときは精神的な存在と化してしまうのだろうと考える。
むしろ、その後も医師が精神病に固執する方が不思議なのだが、まあ、そんなことを言いだすのは野暮というもんでしょう。最後の関心は彼がどんな形で、誰を連れて帰っていくのかということに絞られてしまい、余韻も限定的だ。これはいかにも残念な話である。
3)落ち着き先はヒューマン・ドラマ
作品はそうしたサスペンスの魅力を放棄し、代わりに一種ヒューマンタッチに流れていく。K-PAXに行きたいと懇願する患者に「使命を果たせば連れていく」と言いながら、その使命として「地球にとどまり何があっても耐えること」を命じて人生論的示唆を感じさせたり、地球の何処にも居場所のない患者を同伴者に選んでホロリとさせたり、宇宙は永遠に同じことを繰り返すから今過ちを正すべきだと言ってみたり、何やらホーム・ドラマでも見た感覚に陥るではないか。
好き嫌いはさておき、光と影のコントラストを強調した映像やケビン・スペイシーのユーモラスで奇矯な異星人ぶり、ラストでは同伴した患者だけ煙のように姿をくらましてしまいながら、消え去ったと思われたプロート本人は実はベッドの下に意識不明で倒れていたという意外性など、印象深いシーンは多い。そのため何度も繰り返し楽しめる優れた作品となっている。
かせさん さん
コメントありがとうございます。
本作は仰るとおり、良質なヒューマンドラマとなっていると思います。
ただ、小生としてはレビューにも触れたように、もう少しサスペンス風味を残しておけば、さぞや素晴らしい作品になったろうに…という期待、ない物ねだりをしてしまいます。素材も俳優陣もいいだけにもったいなかったなぁ。