「青春映画の傑作」子猫をお願い たけはちさんの映画レビュー(感想・評価)
青春映画の傑作
もう3度目か4度目の鑑賞。公開当時、蓮實重彦が(確か)何度観ても処女作のような映画として、激賞していたのを覚えている。
インチョンの商業高校を卒業した仲良しの女の子5人組は、それぞれ別の道に進みながら、社会や家庭との軋轢を泳がなくてはならなくなる。
コネで証券会社に勤めたヘジュ(イ・ヨウォン)は、女子力を駆使しつつも、なんとかお茶汲み社員からの脱却を図りたいと願い、貧しい暮らしのジヨン(オク・チヨン)は、テキスタイルデザイナーに憧れつつも次第に格差社会の現実に押し潰されていく。
全体の物語はこの2人の対比と対立、しかしそれでも失われない友情を軸に描かれる。そうした2人を結びつけ、またジヨンの力になるのがペ・ドゥナ演じるテヒだ。テヒもまた封建的な家庭に嫌気が差し、我儘なヘジュに呆れつつもジヨンの力となり、やがてジヨンと2人で閉塞した社会からの逃走を企てる。
紹介していない後の2人は双子の姉妹で、イ・ウンシルとイ・ウンジュが演じているのだが、ともすれば抑圧された厳しい社会の物語になりがちな本作を、明るいキャラクターで彩り、失われない友情の核となって活躍する。この2人の面白さは出色だろう。
どの出演者も魅力的で甲乙付け難いし、オク・チョンの寡黙さもいいのだが、やはりペ・ドゥナのスター性と輝きは本作でも遺憾なく発揮されている。
全編を通じて流れるようなキャメラワークは印象的で、地下街を走り抜けるショットの新鮮さや風の強い海沿いを歩くシーンの突然のスローモーション、幾つかのシーンで見られる横移動と奥への移動ショットのオーバーラップなど、滑らかで美しく洗練されたショットが、本作をいつまでも新しい映画として刻んでいる。
タイトルにある猫は出演者の間で何度か行き来することとなり、遷ろう青春のコントラストを象徴する。
また、忘れてはならないのはオープニングからラスト、そして携帯電話によるチャットやダイビングのシーンで駆使されるタイポグラフィのお洒落さ。
キャメラワークと優れたデザイン性に彩られ、青春を闊歩する登場人物達の躍動は、確かにヌーヴェルヴァーグの輝きを現代に蘇らせている。永遠の処女性を備えた傑作と言える。
PS:過去も含め本作はなかなかレンタルDVDが見当たらず、あってもしばしば傷ついてきちんと観れない目に遭う事が何度もあった。配信の事は良くわからないが、借りる際はかなり確認した方がいいかと思う