キス★キス★バン★バン : 映画評論・批評
2002年12月16日更新
2002年12月21日よりシブヤ・シネマ・ソサエティほかにてロードショー
世界で一番キレイな色のハードボイルド
世界で一番キレイな色の付いたハードボイルド――。コントラストの利いたB&W的印象が強いフィルム・ノワールのスタイルもどこ吹く風な気分で快調に始まる「キス★キス★バン★バン」は、誰が聞いてもウキウキするサウンドトラックに乗せて、イアン・フレミングにオマージュを捧げることを前面に出しつつも、実は一回こっきりの人生における自分の持ち時間を見つめ直し、人生の再スタートに賭ける、不器用な男2人の切ない物語でもある。
主人公フィリックスは寄る年波に凹み、殺し屋家業を引退し、残りの人生を堅気に生きようとする。サブ主人公のババは、父親の過保護ゆえに33年間一歩も家の外に出たことがない子供のままの大人だが、フィリックスと出会ったことで、ババは空っぽだった大人としての“男”の部分を埋めて行く。極めてハードボイルド風味で……。
暗闇を生きて来たヤクザな男と、白日夢の中で生きて来たピュアな男、人生の折り返し地点を過ぎた2人の男が、命の残り時間を捧げて、新しい人生を手に入れるための冒険を始める。「地球が流した涙が集まったのが海だから、だから海の水はしょっぱいんだ」、そんなセリフに、泣く前のように鼻の奥がツンとなった。
(大林千茱萸)