金髪の草原 : 映画評論・批評
2000年8月15日更新
2000年9月9日より銀座テアトルシネマほかにてにてロードショー
少女マンガの巨匠、大島弓子映画の秀作!
大島弓子原作の映画は、気の毒なことにこれまでロクなものがありません。ご存じのように彼女の漫画は、抽象性の高い描線とネームが極めて緻密に構成されていて、生身の俳優があの独特の空気感を出すのは、まず無理なのです。ならば映画化を目論む方に必要なのは、原作者の描線を心に刻みつつも、思い切って“大島ワールド”から遠ざかり、自分たちの世界を再構成する勇気でしょうか。「金髪の草原」のスタッフは、その意味で果敢でした。自らを20歳の青年と信じる富豪の老人と、彼の世話をするホームヘルパー嬢の恋という基本設定は原作に忠実なのですが、加えられた夜の街のオリジナルシーンが、妙に生っぽく、ドキドキさせます。また芸人さん(堺すすむ、りあるキッズ・長田融季)のクスグリも利いていて、この辺りの呼吸は「二人が喋ってる。」の犬童監督らしく、飽きさせません。しかし何より凄いのは主演の池脇千鶴でしょう。彼女を眺めていて久しぶりに「女中」という言葉を思い出しました。草むしりや雑巾掛けが実によく似合います。困り顔からむっちりした二の腕、エプロン姿まで、見事に「女中さん」。全然、大島弓子っぽくない人ですが、これはソソると堪能しました。
(日下部行洋)