劇場公開日 2006年8月12日

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紙屋悦子の青春 : 映画評論・批評

2006年8月8日更新

2006年8月12日より岩波ホールにてロードショー

戦争の「重さ」が感じられなかった黒木監督の遺作

海外の映画祭へ行くと、戦争映画の多さに圧倒される。目の前で繰り広げられる惨状や抑圧された日々が、いかに映画作家の創作の原動力となっているかを思い知らされる。第2次大戦中、九州で勤労動員されていたという黒木和雄監督の中でもまだ、戦争は終わりを告げていなかったようだ。本作品は、「TOMORROW/明日」「美しい夏キリシマ」「父と暮らせば」の“戦争レイクエム3部作”に続く、市井の暮らしから描く戦争映画だ。

物語のメインは、好意を寄せる相手が特攻隊に志願したため、彼に勧められた親友とお見合いすることになる主人公・悦子の人生。戦時下の叶わぬ恋物語は静かに胸を打つものの、黒木監督作品には珍しくアクの薄い俳優人を揃えたため、戦争の「重さ」を感じられない印象の薄い作品になってしまった。これが黒木監督の遺作かと思うと、尚更口惜しい。

むしろ興味深いのは、紙屋家の食卓。腐りかけた芋の煮物に箸を突き、配給の野沢菜を珍しがり、訪問してくる少尉たちのために、節約していた小豆を使っておはぎを振る舞う。日々の小さな出来事が家族の話題となり、喜び合う、彼らのその笑顔が逆に切ない。そんな当時の細やかな描写をフィルムで再現し、今に伝えることが出来る監督がまた一人逝ってしまったことを寂しく思う。

(中山治美)

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