「靴について」少年(1969) しょうけらさんの映画レビュー(感想・評価)
靴について
赤い靴が落ちている.以前に交通事故の現場を目撃したときにも印象的だったのは,そこに落ちている靴だった.正確に言うと交通事故の被害者の体は既に救急車の中にあって,いくつかの痕跡が残っている状態だった.縁石に乗り上げたSUVと道路の真ん中で横倒しになっている郵便局のスーパーカブ.こちら側の歩道には三人組の女性がいて,癇癪を起しているひとりの背中をふたりがしきりにさすっている.その中でひときわ存在感を放っているのは,片方だけ残されたベージュのスニーカーだったことを思い出す.
靴が残されているという事だけで,多くのことを物語っている.交通事故と関係ないところであったとしても,それは想像力に多くのエクスキューズを残す.家であれば靴の数と種類で交友関係が分かるし,通常ではあるはずのない場所に靴が存在していると,それは死のにおいを感じさせる.ビルの屋上に外向きに並べられた靴や,池に浮かぶサンダル.手袋や帽子,上着だったらもっと安全な想像が働くのだけれど,靴の存在による不穏さからは逃げられない.
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