隠し剣 鬼の爪のレビュー・感想・評価
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正に山田洋次監督の作品らしいテーマだと思います
どうしても、たそがれ清兵衛と比較してしまいす
ですが、本作もまた傑作であると思います
たそがれ清兵衛は、日本人の心の原点を探る作品であったと思います
そこは済んだので、本作ではその先のドラマとテーマを追求した作品なのだと思います
テーマは日本人の心の近代化なのだと思います
東北の小藩での小さな事件
江戸から来た西洋式兵術の教官はついこんな辺境にと口走ってしまい、藩の侍達はそれを聞いて腹立ちもしますが、自ら田舎侍と言っています
そんな日本の中央から遠く離れた土地にも開国して新しいやり方、考え方が押し寄せて来ていることを描いています
コミカルに歩き方、走り方、隊列行動から近代化を始めている姿を時間を取って丁寧に描いています
何の為でしょうか?
日本の古いやり方はもはや通用しない
嫌でも新しいやり方に合わせて行くしかない事を説明しているのです
母親の三回忌の法要の後で、主人公は年配の親戚からお前が西洋式の鉄砲や大砲の訓練をしているのはけしからん!と罵られます
飛道具は卑怯だ、侍は刀槍で戦うものだと
主人公は仕事として西洋式兵術を習っています
真面目に勉強もしています
その罵倒にも西洋式兵術の優越性を反論しています
彼の心の中には近代化を肯定する素地ができているのです
そしてクライマックス
剣の腕を見込まれて、彼は藩で一二を争った剣の遣い手の友人と、藩命による決闘に向かいます
激しい剣の戦いでからくも主人公は勝利しますが、友人の留めをさしたのは新式のライフル銃でした
その刀を持つ手を吹き飛ばしたシーンは、日本の古い考え方は最早通用しないという見事な暗喩です
主人公は撃つな!と叫びますが手遅れでした
その時彼の心の中にパラダイムシフトが起こったのかも知れません
友人の政治的主張、友人の妻の哀れな行動
家老の卑劣な行動と言動、上役達の家老への追従ぶり
これらは全て日本の古い考え方では駄目だと主人公にパラダイムシフトを起こさせる土壌です
主人公は侍が嫌になったのでは無いのです
日本の古い考え方、在り方が嫌になったのです
西洋式兵術が象徴する近代的な人間の在り方、生き方を望んだのです
だから江戸でも、京でもなく、蝦夷に向かうと言ったのです
そこに考えが至った時、松たか子の配役の理由が分かりました
松たか子は確かに美しいです
しかし目が大きく現代的な顔立ちと大柄の姿形です
伸び放題の月代まで再現する時代劇なのに何故彼女を配役したのか?
もっと時代劇に相応しい女優がいくらでもいるのに
その理由は彼女が現代的だからです
古い日本の女性ではないからです
序盤の夕餉の団欒で女中ながら侍の主人に軽口を交わせる精神の自由を持つ女性なのです
目に知的な光があり、自我を持つ女性と一目で分かるからです
侍と百姓、主人と女中、男と女
日本の古いしきたり、考え方、生き方の枠を超えられる女性なのです
そして主人公もまたそれを普通のこととして当然のこととして受け止めています
一人の対等な人間として彼女を扱おうとしているのです
むしろそうなるべきと望んでいるのです
確かに彼女への愛情がそうさせているのかもしれません
しかし彼は身分の違いとかいったそんなものを否定しているのです
その後の彼の行動の動機は全てそこからの表出です
本作はその物語であったのだと思います
いいではないか!
これは同じ山田洋次監督の映画「息子」で本作の主人公と同じ永瀬正敏が演じた次男のセリフです
一目惚れした女性が聾唖と知った時の言葉です
侍のヒエラルキーが嫌になったのも確かでしょう
しかし本当の理由はこれです
人間は全て対等、身分の違いなどない
いいではないか!
このような日本の古い考え方が近代化されていく物語だったのです
正に山田洋次監督の作品らしいテーマだと思います
傑作です
前半は良かった
最後の方がドロドロして嫌い。高島礼子が抱いてもいいからと命乞いしたり、腕が飛んだり、主人公は友情を持っているのに相手は全く自分のことだけ。興ざめ。気持ちが悪くなった。
友のため、愛のため、唸れ隠し剣。
山田洋次監督・藤沢周平時代劇三部作第2作。
Amazon Prime Videoで2回目の鑑賞。
原作(同題作/邪剣 竜尾返し/雪明かり)は未読です。
片桐(永瀬正敏)のきえ(松たか子)への恋心や、親友・狭間(小澤征悦)との命をかけた決闘が胸に迫って来ました。
時代が徐々に移り変わろうとする中、自らの想いを貫きながら生きることの困難さが描かれていて考えさせられた。
不器用な生き方しか出来ないことを理解しつつ、武士の世のままならなさを痛感する様に心が締めつけられました。
隠し剣の正体へ興味を抱かせながら、クライマックスにてようやく披露され、技の鮮やかさと呆気無さに唖然。敵を仕留めた後の片桐の胸に去来する想いの虚しさが沁みました。
[余談]
月代がボーボーなのがリアルでした。
※修正(2023/07/13)
こうなってほしいと思う通りに進んでくれる。 だから悔しさやモヤモヤ...
こうなってほしいと思う通りに進んでくれる。
だから悔しさやモヤモヤが残らずスッキリと終わってくれた。
武士同士の戦いならいざ知らず、罪人相手に卑怯も何もない。
それをいうなら刀も抜いていない永瀬に斬りかかる小澤の方がおかしい。
鬼の爪、どんな技かとワクワクしてたら忍びの技みたいだった。
まぁそりゃゲームみたいな必殺技なわけはない。
一撃必殺見事だった。
すっげー面白かったーと思った作品ではないけど、清々しく見終われたのは良かった。
『たそがれ清兵衛』から2年。山田洋次監督による藤沢周平原作の第2弾作品が公開。
下級武士という設定。終盤では謀反を企てた罪人を討つというストーリーもそっくりになってしまった。地方の小藩が現代の公務員の階級制度と酷似していて、武士の魂が無いことを除けばすんなりと受け入れられる点も前作から引き継がれている。
今回、優れているなぁと感じた点は、宗蔵が入城する際にコミカルな使用人(たそがれにも出てた人?)が草履を片付けるところや行燈の火を消したり火を移したりする細かいシーン。そして、すり足が定着している侍が西洋風に歩いたり走ったりすることができないことを描写するところだ。筋の本線がたそがれの二番煎じであるところから、観客を飽きさせないために細かな点にこだわってるのでしょう。
宮崎アニメにも共通するのですが、ほんの数箇所に必ずグロいシーンがあることも定着するのかもしれません。宗蔵と狭間弥市郎との対決シーンはぞっとします(笑)。元々は剣豪小説なのだから、殺陣が大切なんですけどね。
今回のヒロインは松たか子。どうしても宮沢りえと比較してしまいますが、どうだったでしょうか?個人的には宮沢りえの演技の方が上だと思うのですが、松たか子の自然に出てくる涙にはクラクラしてしまいました。吉岡秀隆の演技も『半落ち』よりはずっと良く、小澤征悦だって『ほたるの星』とは雲泥の差を感じるくらいの演技でした。
総合的に見ると、「あの山田洋次が時代劇を?!」という意外性がなくなっているのだから新鮮さを感じないし、設定・展開がそっくりであるため感動も少ない。したがって、『たそがれ』から1点引かせていただきます・・・
長い恋愛が実るまで
時代劇の体はあるが、恋愛映画である。
山田洋次監督作品の雰囲気が強く、時代劇なのに現代劇的な演出がされており、サラリーマン的な侍が多く登場する。
藤沢周平原作の短編は未読で、米沢の訛りが「たそがれ清兵衛」と同じだか、訛りに拘りすぎず、標準語のセリフが入って物語は伝わりやすい。
ままならぬ侍勤めに嫌気がさす過程を見せてくれるが、謀反の侍の討ち手になり、討ち取っていく所は「たそがれ清兵衛」と似ているのでその辺はどうか?と思う。
隠し剣 鬼の爪も悪家老(笑)緒形拳を一瞬で仕留める為だけに使っているが、敢えて地味な演出にしたのか?
タイトルになっているのに、この扱い。
憎たらしい家老を派手な演出で仕留めて欲しかったなぁ~。
「たそがれ清兵衛」と似てるなぁ〜ってみてました。 がしかし、「たそ...
たそがれ清兵衛と一緒やん! こんな似た作品で終わるはずがない。そう...
正直に生きる男
「たそがれ清兵衛」とよく似ています。俳優も一部被っています。
違いと言えば、ヒロインのほうが格下の身分で、新しい価値観の広まりとそれに抵抗する古い体制の対立が、若侍vs老侍、江戸vs田舎、倒幕(謀反)vs幕府という構図でより明確に描かれています。主人公宗蔵も、頭では銃や西洋式軍隊を受け入れつつも、やはり心は侍、刀で死ぬべきといった考えでしょうか。
宗蔵は恐らく初恋の?きよ一途、旧友とその妻の分まで仇を討つという、筋の通った信念の持ち主で、好感を持ちました。女性のために活躍する姿が素敵(≧∀≦)。悪徳家老もやっつけてくれて勧善懲悪でスッキリしますが、果し合いは清兵衛の方が見応えありました。鬼の爪はここぞという時にしか使えないんでしょうね。死因がバレてしまうから。
「たそがれ清兵衛」に似すぎ、でも松たか子はえらい
総合:75点 ストーリー:75点|キャスト:85点|演出:80点|ビジュアル:75点|音楽:65点
前作の宮沢りえも良かったが、今作の松たか子が素晴らしかった。初めての海を見に行った浜辺での場面の、彼女の科白と表情と自然に流れる(ように見える)涙は特筆ものだった。身分の違いや立場を考えてみて、それでも何とか傍においてもらおうと粘って、それでも駄目で自分に言い聞かせるように、そして相手にすがるように自分の感情を伝える姿が相当に上手い。主演の永瀬正敏や妹役の田畑智子も良かった。
殺陣はやや動きも遅くてこんなものかなという感じ。物語は悪くないのだが、あまりにも同じ監督の前作「たそがれ清兵衛」に似ていて、それがなくてこの作品だけ存在したのならばもっと面白いと思ったことだろう。だがあの作品を見た後で本作が出ても二匹目のどじょうか二番煎じくらいにしか思えず、もっと独自性があればいいが物語も演出も似ているのでどうしても新鮮味がない。もっと作品ごとの違いを明確にしなければ金太郎飴状態になってしまう。せっかく質の高い作品なのでもったいないと思ったし、それがなければもっと良い得点を付けられた。
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