ジャケット : 映画評論・批評
2006年5月16日更新
2006年5月20日より東劇ほかにてロードショー
過去のない男は、記憶ではなく新たな自己を探す
イギリス出身のジョン・メイブリーと彼の師だったデレク・ジャーマンの作品では、ゲイというセクシュアリティが重要な位置を占めているが、彼らのアイデンティティの探求は、肉体や性的指向として映像に現れるだけではない。彼らは、人物の内面や記憶を掘り下げ、ドラマではなく多様なイメージが交錯する映像言語を紡ぎ出し、直線的な時間の流れに束縛されない独自の世界を切り開いてきた。そんな感性と表現は、主人公ジャックが記憶障害を背負い、現在と未来を往復するこのハリウッド進出作品にも引き継がれている。
ジャックは、道で出会った少女からドッグ・タグ(認識票)のことを尋ねられて、「自分が誰だか忘れたときのために」と説明する。だが、この言葉は皮肉にもなる。なぜならこの映画では、彼の過去に関して出身地以外、何の情報も提示されないからだ。彼は最初から過去のない男として存在し、そこからユニークなアイデンティティの探求が始まる。
未来の世界で自分の誕生日に再びドッグ・タグを手にした彼は、失われた自己を取り戻すのではなく、新たな人生を歩み出し、限られた時間のなかでゼロからジャックになり、自己を確認していくことになるのだ。
(大場正明)