インプラント : 映画評論・批評
2003年3月1日更新
2003年3月8日より渋谷東急3ほかにてロードショー
暗闇に潜む恐怖をひたすらに描き出す
ルトガー・ハウアーが不死身の殺人鬼を演じた「ヒッチャー」は、粘っこい執拗な演出が忘れがたい力作だったが、あれでデビューした監督ロバート・ハーモンが、なんと16年ぶりにホラー映画にカムバックしたのが、この「インプラント」。まるで医学スリラーのような邦題だが、内容は驚いたことに、民話の子取り鬼=ブギーマンを思わせる怪物がヒロインを襲う、正統派のモンスター・ホラーなのだ。雨が降り続き、停電が頻発する薄暗いニューヨーク市を舞台にした、パソコンも携帯電話も登場しない、まるで現代とは思えない物語は、都市伝説や若者風俗などには目もくれず、ただひたすら暗闇に潜む怪物の恐怖だけをじりじりと描き出す。「ゴジラ/GODZILLA」の名手パトリック・タトプロスが作りあげたクリーチャーの、見えそうで見えないさじ加減も絶妙。タトプロスが闇に棲む怪物をデザインするのは「ピッチブラック」に続いてこれが2度目になる。
ウェス・クレイブンが名前を貸して紹介に一役買っているが、子供の恐怖、夢、地下室の暗闇などのテーマは彼の映画でもおなじみのもの。それでいて「エルム街の悪夢」「スクリーム」などのポップなホラーとは根本的に行き方が違うのが皮肉だ。
(添野知生)