劇場公開日 2003年12月20日

「ロックよ、高円寺よ、どうかそのままで。」アイデン&ティティ ychirenさんの映画レビュー(感想・評価)

5.0ロックよ、高円寺よ、どうかそのままで。

2024年9月25日
iPhoneアプリから投稿

高円寺に佇む古いアパートの一室、トイレ共同、風呂無しの四畳半に彼は突然現れる。その彼とはディランことボブディランである。1960年代アコースティックな反戦歌で聴衆の心を掴み、2016年にノーベル文学賞を授与されたあのディランだ。
(ディランの説明、雑でごめんなさい)
帽子に襟巻き姿でギターを担ぎ、おしゃべりする代わりにハモニカを吹くディラン、四畳半の家主である売れないバンドマンの主人公 中島とせんべい布団を分け合い、道を踏み外しそうになる中島をいつも物陰から見守り、押し付けがましくなく、時に押し付けがましくロック道を説いてゆく。普通に考えたらありえないはずの出来事(ディランが高円寺で居候などするわけない)なのになんだか笑いながら納得してしまう。これはみうらじゅんさんの原作の力も多分にある。でも決してありがちな漫画原作の映画になってはいない。原作愛溢れる田口トモロヲさんが撮ったのだからそうなるわけがない。
常にディランのような歌を唄いたいと願う主人公はその反面自分はディランのような本物の歌を歌えないと苦悩している。本物のロックが歌えない、何故なら平和な経済大国、すなわち右に習えでアイデンティティの無い日本で生まれ育った主人公は不幸な事に不幸を知らないからだ。
愛する音楽も仲間もそして恋人もすぐ側にに在るはずなのに「ディランのような歌を」と無いものねだりをすればするほど大切なものが遠のいてゆく。そんな主人公の不幸を私はちょっぴり妬ましく思った。だってそれこそが幸福故の悩みだもの。そして高円寺の古アパートで自分なりのロックを見つけて行く姿を羨ましくも思ったりもした。
ボブディランよ永遠にと熱望するファンと同じ熱量で私も祈っている。高円寺、ロック、バンドマン、木造アパートにライヴハウスよ永遠に!絶滅危惧種になんかならないで、と。映画公開から20年以上が経ちコロナ禍を経てライヴ配信が一大勢力となった今だからこそ尚更そう思う、
どうかそのままでいてほしい。

ychiren