ハッスル&フロウ : 映画評論・批評
2006年8月8日更新
2006年8月12日よりテアトルタイムズスクエアにてロードショー
南部の土壌と音楽の力が浮き彫りになった傑作
カーティス・ハンソンは「8Mile」で、エミネムの物語を語るだけではなく、デトロイトのインナーシティの日常をリアルに描き出した。ジム・シェリダンは「ゲット・リッチ・オア・ダイ・トライン」で、50セントの物語を語るだけではなく、アイルランド人としての自己の世界も描き出した。「ハッスル&フロウ」には、その2作品にはない生々しさと熱気がある。メンフィスに生き、メンフィスを舞台にした“Poor & Hungry”でデビューしたクレイグ・ブリュワーは、メンフィスという街の物語を語ることにこだわり、それをDジェイとその仲間、彼らの音楽に凝縮していく。
浮浪者から取り上げたキーボード、クーラーも使えないクルマのなかで紡ぎ出されるライム、卵のパックを壁に張った即席のスタジオ、Dジェイが抱える娼婦が身体を張って手に入れる高価なマイク、妊娠によってお荷物になった娼婦のコーラス。デモテープには、彼らのすべてが注ぎ込まれ、それゆえにDジェイをトラブルに巻き込むことにもなる。
ブリュワーがそんなドラマを通して浮き彫りにするのは、黒人と白人(ちなみにこの監督は白人である)、男と女、囚人と刑務所の看守を繋ぐ南部の土壌とそこから生まれる音楽の力なのだ。
(大場正明)