「なにより面白い」シャイニング 吉泉知彦さんの映画レビュー(感想・評価)
なにより面白い
カナザワ映画祭2014爆音上映で見た。多分3回目。20分長いバージョンだったのだが、前に見たのが随分前なうえに、途中で寝てしまったのであまり分からなかった。
ジャック・ニコルソンが作家であり、食っていくために教師をしていて、作家に専念するために教職を辞して5か月山のホテルに籠って作品を描き上げることを決意する。彼はアル中でもあったようだ。広い仕事場で、タイプライターを叩く。そこに妻が訪ねると激怒する。集中するのは大変で、集中するにも時間が掛かる。とにかく仕事しているっぽい時は邪魔をするな。オレも漫画家なのでその気持ちが痛いほど分かり、そうだそうだ!と思った。遊んでいるように見えても実はそれは集中するまでの段取りで本人は苦しんでいるのだ。
ところが、後で妻がタイプ打ちした紙の束を見たら「仕事ばかりで遊びがない、ジャックはいずれ気が狂う」といった文章を延々、文字の組み方を変えて打っていただけだった。一切小説など描いていないのだった。
ジャック・ニコルソンは作家であると言っているだけで本など出したこともなく、ともすれば一作も描き上げた事がない、ただの作家志望の男だったのかもしれない。描き方も分からず、描きたい内容もないのかもしれない。
しかし、妻や世間には作家であると言いたい。そのためタイプライターを打って執筆している振りをし続けないといけない。ばれたら最悪だ。何も仕事をせずに遊んでいることがばれてしまう。
もし自分が漫画を描くことができなくなって、しかし漫画家である振りをし続けたとしたらどうしようと思ってゾッとした。そんなの絶対に狂うに決まっているし、家族を惨殺するかもしれない。今回は途中で寝てしまったのだが、非常に身につまされる映画であったことがわかりゾッとした。
お母さん役の人の顔がすごくて、彼女が怯えるたびにすごく怖さが伝わってこっちまで怖くなった。旦那は狂うし、息子は「レッドラム、レッドラム」とぶつくさつぶやき続けるノイローゼみたいな感じで、まともなのが自分だけであんな状況はたまらないと思った。
ストーリーは非常にシンプルなのだが、ドラマはとても豊かで、お母さんに寄り添う形で描かれており、ドラマの豊かさとは一体なんなのだろうととても考えされられた。
(追記)
初めて見たのは高校生の時で、7年前にカナザワ映画祭でも見て、スクリーンで見るのは3度目だ。その上『レディ・プレイヤー1』を間に挟んでいて、印象がまた変わっているけど面白い。ジャックは自称作家説を抱いているのだけど、ますますその説が強くなる。奥さんの怖がってる顔が改めてすごい。何度見ても面白い。BSプレミアでも録画したので、またそのうち見たい。