あなたになら言える秘密のこと : 映画評論・批評
2007年2月13日更新
2007年2月10日よりTOHOシネマズ六本木ヒルズほかにてロードショー
歴史の1ページで終らせてはならない出来事もある
工場で働くハンナはある日、上司から休暇を取るように命じられる。職場と自宅を往復するだけの生活を送る彼女は意を決して旅に出るが、滞在先で油田事故により負傷したジョセフの看護を引き受けることに。
ライスと鶏肉、半分に切ったリンゴの食事を続け、誰とも交わらぬ耳が不自由な主人公ハンナ。明らかに心に傷を負っている彼女が心を閉じた理由にまずは興味を引かれるが、監督は海に浮かぶ油田採掘所でそれぞれの孤独と対峙する男たちの姿を描き出す。妻との不倫を知った親友に目の前で死なれた男ジョセフやマッチョな採掘人からバカにされる海洋学者らを前にしても何も語らず、何も感じていないかのようなハンナの反応は一歩間違えれば彼女を冷たい人間と見せそうだが、サラ・ポーリーが切なく思い詰めたような表情でハンナの悲しみを見事に演じきっている。寄り道に見えもする演出でハンナの孤独を際立たせたイザベル・コイシェ監督の手腕も光る。
監督が描きたかったのは、ボスニア内戦中の民族浄化という狂気によって心身ともに消えない傷を負った女性の存在である。今からわずか10数年前の出来事でしかないのに忘れられがちな戦争であり、ましてや被害者女性の存在などなにをか言わんやだ。歴史の1ページと思われがちだが、現実にはスーダンでも同様のことが起こっているわけで、過去の出来事と葬り去ってはいけないと胸に刻むべき作品である。
(山縣みどり)